『ネバーランド』が自分の痛々しい高校時代を思い出させてくる…

『ネバーランド』は恩田陸の9番目の作品になるのだろうか。出版順に読んでるわけだが、この作品にはマイッタ。なにがマイッタって前回読んだ『月の裏側』のトラウマレベルのホラーから一変して、あまりに僕好みの青春小説だったからだ。

ブンブン振り回されて感情をゴッソリ持っていかれた。そんな感じだ。

ネバーランドと聞くとやっぱり思い浮かべるのはピーターパンのあの世界だろう。子供がずっと子供でいられる場所。そんな場所なんてない事を僕たちは知っている。でもだからこそ青春を切り取ってある作品を読むと懐かしさに悶てしまう。

こういう青春が、僕にもあった。

…ら良かったのに。と。まさに理想的な青春。そんな世界観を描いたのが恩田陸のネバーランドなのだと思う。一体どんな青春か。それをレビューしていこう。

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ネバーランド – 恩田陸・あらすじ

ネバーランドとは…

ど田舎の伝統ある男子校の一角を占める古い寮、松籟館。そこに各々の理由によって年末に居残る事を決めた4人の男子生徒。自由で特別な時間を過ごす彼等は告白ゲームというものを始める。そして吐き出される彼等の過去。クリスマスから年明けまでの7日間を追う青春小説。

読書エフスキー3世 -ネバーランド篇-

文豪型レビューロボ読書エフスキー3世
前回までの読書エフスキー3世は…

書生は困っていた。「まだそこは読んでないんだから食べないでください!ほんとにほんとにお願いします!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。読んでいない本のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…

ネバーランド -内容紹介-

無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
大変です!先生!恩田陸の『ネバーランド』の事を聞かれてしまいました!『ネバーランド』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
“いつかあったハズの青春”デスナ。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
…と、言いますと?正直な所『ネバーランド』は面白い本なのでしょうか?

美国が暮れに松籟館に残る決心をしたのは、別に大層な理由があったわけではなかったが、寛司が残ると聞いたのもその一つであることは確かだった。

引用:「ネバーランド」恩田陸著(集英社)

読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
コンナ一文カラ始マル恩田陸の長編小説デス。読メバワカリマス。
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
えーっと、それでは困るのです。読もうかどうか迷っているみたいですので。ちょっとだけでも先生なりのご意見を聞かせていただきたいのですが。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
真ノ紳士ハ、持テル物ヲスベテ失ッタトシテモ感情ヲ表シテハナラナイ。私ノ好キ嫌イヲ…
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
えええい。煩わしい!先生、失礼!(ポチッと)
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
無料読書案内の書生
無料読書案内の書生
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
批評

ネバーランド -解説-

読書エフスキー
読書エフスキー
私はすごい事に気がついてしまった。
書生
書生
のっけからどうしたんです?世紀の大発見ですか?
読書エフスキー
読書エフスキー
小説でもドラマでもアニメでも漫画でもなんでもいいのだが、「これ、終わってほしくないな…」って思う作品ってあるでしょう?
書生
書生
まぁ、ありますね。ずっと観ていたい作品って事ですよね。
読書エフスキー
読書エフスキー
その共通点っていうのを見つけてしまったのですよ。
書生
書生
え?好きかどうかって事じゃないんですか?好きだからずっと続いて欲しいって思うものでしょう、きっと。
読書エフスキー
読書エフスキー
まぁ、確かにその要素も多分に関係はしてくるのでしょうが、それ以外の要素でですね、ずっと続いて欲しい。ずっと観ていたいって思うものの要素です。
書生
書生
それは一体なんでしょう?
読書エフスキー
読書エフスキー
えー?教えないといけないんですか?
書生
書生
出来ればご教授願いたい所です。(なんだコイツ!)
読書エフスキー
読書エフスキー
仕方ないですね。もしかしたら私の思い違いって事もありますから、あまり人には言いたくはないのですが、ずっと続いて欲しいって思う作品はですね、物語で引っ張らない作品だと思うのですよ。
書生
書生
ん?物語で引っ張らない作品?…というのは例えばどういう事です?
読書エフスキー
読書エフスキー
昔からずーっと続いている作品ってあるでしょう?サザエさんとかドラえもんとか。あれって正直な所、物語で引っ張らないでしょう?なんというか何をやってもいいっていうか、大筋がないでしょう?ドラえもんが鬼を退治にしに行くとかそういう話ではないですよね。
書生
書生
それはつまり歳をとらない作品って事ですか?
読書エフスキー
読書エフスキー
えーっと、歳はとってもいいんですよ。なんというか物語を引っ張っていく大筋がないのが特徴で。たとえば、桃太郎って鬼を退治に行きますよね。その途中で犬とか猿とかきじを仲間に入れますよね。
書生
書生
そうですね。それで鬼ヶ島に行くって話ですね。
読書エフスキー
読書エフスキー
そういう作品ってね、先が気になるわけですよ。だからこそ物語が完結したら好奇心はなくなる。鬼を倒した後は新たな敵が現れない限り桃太郎はめでたしめでたしでオシマイ。
書生
書生
ほほう。
読書エフスキー
読書エフスキー
でもサザエさんとかドラえもんってそういう大筋ないでしょう?キャラクターありきというか、そういうキャラ同士の関係性を観て楽しむものじゃないですか。
書生
書生
ふむ。劇場版ドラえもんってものもありますけどね。あれは大筋ありますよね。
読書エフスキー
読書エフスキー
確かにそうですね。だからまぁ、ひとつの要素ってだけの話なんですが、私がずっとこの作品に触れていたいなって思うものはそういう大筋がなくても楽しい作品だと思うんですよ。
書生
書生
それが実は今回の恩田陸の「ネバーランド」にもあると?
読書エフスキー
読書エフスキー
そうですそうです。恩田陸って今まで、本筋は必ずあったでしょう?ミステリー要素を必ず含めていた。それでラストがふわっと終わるってのが特徴の作家だと思ってたんですよ。人によっちゃ、そのふわっと終わるのが気に食わないというか。
書生
書生
そーですね。気になって気になって読み続けていたのに、最後までたどり着いたら、ん?なんだ?結局どうなっちゃうの!?って感じで終わられるとキモチワルイというかちゃんと広げた風呂敷を回収して欲しい気持ちは生まれますね。
読書エフスキー
読書エフスキー
でもそれって、大筋があるから成り立つ事でしょう?前回の月の裏側も、老人が失踪するって事件が続いてそれの真相を追っていくっていう大筋があったじゃないですか。
書生
書生
はい。確かに。そこからまさかあんな事になるとは思いもしませんでしたが。
読書エフスキー
読書エフスキー
でも、今回は実は4人の男の子がひたすら話をするってだけの話なのです。
書生
書生
えー!?それは本当に面白い事なのでしょうか? たしか前もそんな事があったような気がするのですが…
読書エフスキー
読書エフスキー
木曜組曲ですな。 でもあれは一人の女性の自殺について語って行くミステリーだったでしょう?

『木曜組曲』を読み終えた後、部屋で叫んだ。してやられたとは…

書生
書生
ええ。確かに。ミステリー要素があったからひたすら部屋で話をするだけでも面白かったというか。…という事は今回もミステリー要素を含んでいるんでしょうか?
読書エフスキー
読書エフスキー
うーん。今回はですね、確かにミステリー要素を含めようとして始めた物語のような気もするのですが、恩田陸が書いている途中でシフトチェンジした気がするのですよね。
書生
書生
シフトチェンジ?
読書エフスキー
読書エフスキー
そうです。あー、これ、ミステリー含めなくても充分面白いわ。ってな感じです。最初の秘密はそっちのけで別の話題で話が進んでいく。
書生
書生
なんとなく話を聞いている限りではブレブレな話な気がするのですが。それでもキャラクターが良いから面白いって事なんですか?
読書エフスキー
読書エフスキー
そうなんです。とある有名校の男子校の伝統的な寮で、帰省しないで年末を過ごす男子高校生3人。そこに自宅通いの男子が一人混ざって宴を開く。
書生
書生
ふむ。宴を。高校生が。
読書エフスキー
読書エフスキー
その宴の余興というか、そういうものでゲームをするわけです。そして負けたら実行か告白を選んで、勝った者の指示に従って行うっていう。
書生
書生
ほー。実行か告白か。 告白ってのは恋愛的な?
読書エフスキー
読書エフスキー
それならばきっと一般的な高校生っぽくてよかったのでしょうが、この寮に残っている人たちってのは帰省しない理由があるわけで、みながみな爆弾を抱えているんですな。
書生
書生
それを告白していくと。なんとなく重たい雰囲気を漂わせそうな小説ですね。
読書エフスキー
読書エフスキー
そーなんですよね。およそ高校生が処理出来ないであろう問題を話題にあげていき、それをまぁ、解決は出来なくとも、4人で共有することで少しだけでも救われるというかなんというか、そういう青春っぽいのあるでしょう?
書生
書生
…あったら良かったですけどね。僕にはなかったです。そういう青春っぽい友人が。
読書エフスキー
読書エフスキー
そうなんですよ。この小説はきっと一部の人しか体験出来なかった青春がぎゅっと詰まっている。理想の青春がそこにある!ってわけなんです。こんな友人欲しかったなぁ。こんな高校生活送りたかったなぁ…っていう。
書生
書生
あー。なるほど。なんか心えぐられてしまいそうだ。自分の高校生活と比較しちゃって。
読書エフスキー
読書エフスキー
そんなに散々な高校生活だったのですか?
書生
書生
いやー。がっつり高校野球をやっていましたよ。10年野球やっていたんですけどね。高校で野球は辞めようと思っていたので、悔いのないように完全燃焼しようと野球に燃えていました。
読書エフスキー
読書エフスキー
いいじゃないですか。青春じゃないですか。
書生
書生
そう思うでしょう?でも実際の高校生はもっと複雑でしてね、野球部の後輩が自殺しちゃったんですよ。しかも同じポジションの。
読書エフスキー
読書エフスキー
え…。そうだったんですか。
書生
書生
ええ。しかも自殺する前日に僕はそいつが元気なかったんで「声出せよ!」って言ってね。ポジションがファーストだったんで内野手の盛り上げ役というかね。人一倍声出さなくちゃいけないって思ってたんで、「声出せよ」って言ったんですけどね。
読書エフスキー
読書エフスキー
うむ。それは別に間違っていないのではないでしょうか?
書生
書生
はあ。でもね、僕ねその声出せよ!って言葉がそいつに全く響かなかったので「お前ダメだな!ファースト向いてないよ」って言ってしまったんですね。そしてその次の日に自殺。正直なところ、全く別のことで悩んでいての自殺だったんですが、僕は最後にかけた言葉がそれだったから、ずっとモヤモヤが残ってね。
読書エフスキー
読書エフスキー
あぁ。別れは突然ですね。人生なんて何が起こるかわからない。だから後悔のないように一瞬一瞬を一生懸命生きなければならないのでしょうね。
書生
書生
そうなんでしょうけどね。僕はその後も声を出し続けたわけですよ。自分は間違っていない!って感じで。でもね、監督にもキャプテンにもお前の声、価値ないよって言われてね。
読書エフスキー
読書エフスキー
お、重たいよ!話が!
書生
書生
ま、つまりは現実の青春なんてこんなもんなんですよ。実際こういう感じで自身の闇を告白されたところで、聞いている方はなんて答えたらいいのかわからないんです。好奇心で聞いてはみたものの、自分の思っていた話より重たい話が来ると辞めてくれーってなるんです。
読書エフスキー
読書エフスキー
そーなんですね。その事について、登場人物の一人がこんな事を語っています。

おまえらはいつもそうだ。好奇心丸出しにして、いろんなことを聞きたがる。でも、俺が話し始めるといつもやめろと言うんだ。自分が聞きたがってたくせに、聞いてられないって言うんだ。それで、聞き終わると、俺のことを汚いものみたいに見て、こそこそ避け始める。聞きたかったんだろ、いくらでも聞かせてやるよ。

引用:「ネバーランド」恩田陸著(集英社)

書生
書生
あー。僕はそれでなんというか人に相談するでもなく、ずっと解決も出来ないまま、高校のかけがえのない友人というものも出来ず卒業したわけですが。自分の言葉がいつ誰を傷つけるかわからないし。
読書エフスキー
読書エフスキー
この登場人物もきっとそういうタイプの人間だったのでしょう。なんでもかんでも自分で出来てしまうし、人に相談もせず。でもこの物語では3人の友人に恵まれた。
書生
書生
いいなぁ。羨ましい。
読書エフスキー
読書エフスキー
そう。だからね、あったかも知れない青春の物語なわけです。ネバーランド。ネバーランドなんてどこにもないのは誰もが知っている。でもどこかであって欲しいとも願っている。
書生
書生
そう考えるとぴったりなタイトルですね。
読書エフスキー
読書エフスキー
こういう友人がいたら自分の人生どうだったかなぁって想像するのは別に悪い事でもないでしょう?人生には沢山の可能性があった。もしこうだったら自分ならこうしたかもしれない。たらればを考えたらキリがないなんて言われますが…。
書生
書生
でもまぁ、なんとなく理想は理想で存在していてほしいですよね。
読書エフスキー
読書エフスキー
現実にこんなやつらいねーよと頭でわかっていても、どこかでそうあって欲しいとも願っている。そういう世界を書くの、恩田陸は本当に得意なんだなって思った作品でした。こういう作品をどんどん読んでいきたいですね。
書生
書生
恩田陸を初めて読む人にもオススメ出来る作品ですか?
読書エフスキー
読書エフスキー
そーですね。恩田陸っぽさと言われたら薄い気はしますが、2番目ぐらいに読んでもらいたい作品です。恩田陸もあとがきの中で…

この小説は、私にとって個人的に重要な小説だと思っている。私が将来、もう少し成長した時に書きたい小説の原型になりそうな予感がする。

引用:「ネバーランド」恩田陸著(集英社)

読書エフスキー
読書エフスキー
と言ってますし。
書生
書生
ほほー。恩田陸というとミステリーとかファンタジー要素が強い作家だと思いましたが、ミステリーでもなくファンタジーでもないこの作品に対して、こういう発言をしているとは驚きです。
読書エフスキー
読書エフスキー
たしかにそうですね。今まではミステリーやホラー、ファンタジーが混合しているようなイメージを受けるコンセプトの作品が多かったですが、今回はイノセンスに青春どストレートで勝負して、ノスタルジックな感覚にコンタクトしてきますからね。
書生
書生
(カタカナを 使えばなんか それっぽい。書生心の俳句。何を言っているのかさっぱりわからないけど、なんかわかる気がしてしまう不思議。)
読書エフスキー
読書エフスキー
私にも素晴らしい青春があったら良かったのに…。
書生
書生
先生は一体どんな青春を送っていたのです?

批評を終えて

読書エフスキー
読書エフスキー
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「バフチン・セイシュン・ナッスィング!」
書生
書生
あれ?僕は一体何を…。こ、このカセットテープは。
ブックレビューテープ
読書エフスキー
読書エフスキー
ウィンク。パチンパチン。
書生
書生
せ、先生!ありがとうございます!これを何度も聞いてしっかりと『ネバーランド』の読書案内を出来るように努力します!
読書エフスキー
読書エフスキー
マ、イチ意見デスヨ。「幸福ハ幸福ノ中ニアルノデハナク、ソレヲ手ニ入レル過程ノ中ダケニアル」ト昔ノ人モ言イマシタシ。ヨリヨクオススメデキルヨウニ努力スルノハハイイコトデス。デハデハー。
書生
書生
ラジカセどこにあったっけな…。カセットテープなんて久しぶりに見たぞ…。未来からのロボ。うーむ…
ネバーランドレビューお終い
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名言や気に入った表現の引用

書生
書生
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『ネバーランド』の言葉たちです。善悪は別として。

『帰る』という言葉はどこか女々しく甘酸っぱく、そして情けない。見ろよ、今奴等は普段仲間に見せていたいっぱしの虚勢をかなぐり捨て、いそいそと母親の膝に甘えに帰ろうとしている。むらむらと込み上げてくる言いようのない苛立ち。
 彼は子供の頃からその言葉がなんとなく気に入らなかった。絵本を読んでも、アニメを見ても、ラストシーンにがっかりした。敵を退治し、宝物を獲得し、勝鬨を上げる、そこまではいい。だが、みんな最後には帰ってしまうのだ。笑顔で故郷に帰還する英雄たち。ちぇっ、こいつもだ。こいつには期待していたのに、なんでまたのこのこ帰っちゃうんだろう? どうしてさっさと次の冒険に出かけていかないのだろう? 英雄たるもの、決して旅路など辿ってはならず、村人の歓声や妻の涙に惑わされてはならない。凱旋した男は栄誉という呪縛にからめとられ、その瞬間から一歩も進めなくなってしまう。いつまでも幸せに暮らしました、だと? なんたる堕落。

十六、七の少年にとっての堅実さとは、退屈やカッコ悪さと同義語である。いつかずっと先、若さを失った時の最後の選択肢であると敬遠あれがちだが、その一方で少年たちは堅実であるということの難しさ恐ろしさも薄々予感し始めている。

科学者に熱心な宗教家は多いよ。科学だってしょせん『科学教』という宗教だもん

とっとと食え。俺、ベーコンの脂が皿の上で固まってるのって、この世で絶対許せないもののひとつなんだ

ラジオから流れてくる声は、どんなに流行りのDJやタレントのものでもどこか懐かしい。だからNHKのアナウンサーの声ともなれば、どんなに深刻な内容を話していても、なぜかとろんと眠くなる。幼稚園の頃に戻って、「むかしむかし」のお話を聞いているような気分になるのだ。

美国はひたすらご飯をかきこんでカレーとの中和を試みていた。カレー自体はあとを引くほどうまい。だが、うまいと思って次の一口を入れようとする瞬間、粘膜と鼻の奥に赤い火花が炸裂し、痛いような眩しいような強烈なものが目から脳味噌にかけて突き上げてくるのだ。たちまち目がうるうるして汗が噴き出してきた。

ここに出てるこいつらT工大だぜ。頭いいんだぜ。日本の学生の上位数パーセントに入るこいつらが六年も英語の授業受けてるのに、見ろよ、誰もろくに喋れないし、聞き取れもしない。英語ってコマだって多いし、年間べらぼうな時間掛けてるのに、全然役に立ってないじゃん。六年間の授業が全くの無駄だってこと証明してるじゃないか

雪が降っている状態を最初に『しんしんと』と表現した奴は誰だろう。これほどぴったりの描写を思い付いた奴は天才に違いない。聞いた誰もが、それがぴったりの表現だと思ったからこそ今も使われているのだ。

テニス部か陸上部かの違いだよ。俺は絶対におまえみたいに陸上部なんか選ばない。陸上って、記録に対する絶対評価だろ。あんな、一人で黙々と自分と対話してるようなスポーツ耐えられないし、俺にはできない。でも、おまえにはできる。その違いだよ。どっちがいいって話じゃない。俺は、向かい側に人が立ってないと駄目なんだ。相対評価でなきゃ嫌なんだ。誰かと向き合ってやりとりしながらでないと、自分がなんのためにここにいるのか分からなくなって、ものすごく不安になる

おまえらはいつもそうだ。好奇心丸出しにして、いろんなことを聞きたがる。でも、俺が話し始めるといつもやめろと言うんだ。自分が聞きたがってたくせに、聞いてられないって言うんだ。それで、聞き終わると、俺のことを汚いものみたいに見て、こそこそ避け始める。聞きたかったんだろ、いくらでも聞かせてやるよ。

ゆっくり眠ってほしい。何も思い出さず、何の夢も見ずに眠ってほしい。

女の子って、可愛いし楽しいけど、いろんな余計なものがくっついてくるからな。コンビニのレシートとか、ピンクのリボンとか、ドーナツ屋で貰ったマグカップとか、手帳のシールとかさ。そういうちまちましたものがくっついてくるとこが可愛いんだけど、それがまた嫌なんだよなあ

楽しいけれども片っ端から消えていって記憶に残ることのない会話。

雄弁な沈黙が続いた。二人とも何かを言おうとしているのをお互いに感じているのだが、言い出すきっかけがつかめない、そんな感じだった。

読書エフスキー
読書エフスキー
引用:「ネバーランド」恩田陸著(集英社)

ネバーランドを読みながら浮かんだ作品

読書エフスキー
読書エフスキー
ネバーランドに似てるのか。神ト悪魔ガ闘ッテイルのか。ソノ戦場コソハ人間ノ心。コノ作品ガ私ニ思イ起こさせた。タダソレダケなのだ。
書生
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ちょっとジャンルは違うけれど、映画『遠い空の向こうに』を思い出しました。青春と親との軋轢と。
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レビューまとめ

ネバーランドまとめ
ネバーランドは何点?

今までの恩田陸の小説の中で、個人的には一番好きな作品でした。面白いかどうかは別としてね、好みの問題で言うと一番好き。好き嫌いはやっぱり個人的なものなので、人にオススメしたいかどうかは別ですが。

こういう作品も恩田陸は書けるのだなぁ…とすごく驚きました。ホラーとかミステリーが得意な作家だとばかり思っていましたので。ミステリー要素を絡めてノスタルジーな所をくすぐるのが得意な作家だと。

そんなイメージを持っていたところにこの作品だったので、ガツーンと持っていかれました。

僕の高校生の時の記憶が蘇ってきました。あぁ。こんな友達がいたなら少しは僕の高校生の時の思い出も、こんなに苦々しいものになっていなかったのかもしれない。

大人になってから、高校の同級生と同窓会を開ける人たちが羨ましい。意外とそういう人多いのかも知れないですが。どうにも僕は足が向いていかないのです。

思い出すのは嫌なことばかり。

野球をやっていたはずなのですが、それ以外の部分の闇が深すぎた。そんな闇を少しだけ明るく照らしてくれたような今回の作品。読めてよかった。

ではでは、そんな感じで、恩田陸の『ネバーランド』でした。最後にこの本の点数は…

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ネバーランド
いいね!を貰えるとやる気が出ます。読んでくれて本当にありがとう。