【ブログ小説】映画のような人生を:第十章「大学生」

ブログ小説の十回目の更新。大学生について。

このブログ小説は大学生での出来事が中心となっていますが、自分の大学生の頃を振り返ってみるとなんと多感な年齢だったのだろうと驚きを覚えます。

二十歳を迎え、年齢的にも大人になった自分。世の中のことはすべてわかったつもりになり、自分の正論を振りかざす。しかし現実は自分の思い通りにはいかず、事あるごとに落ち込む。

あの時ほど、現実と理想のギャップに苦しんだ事はなかったと思います。

僕は大学生のときに鬱になり、そのときに書いたノートなどを元に「悩みを相談する友達ができない大学生が考えた辛い人生を変えたい格言」という記事を書いたことがありました。

このブログ小説の主人公もきっと、理想とする大学生像と現実の自分とのギャップに苦しんでいるのですが、それをどうやって成長につなげていくのか、過去の僕は何を書いたのか、ぶっちゃけ自分では覚えておりません

なので、こうやって章立てして毎回お送りしていますが、僕が一番最初の読者なんですよね。読みながら恥ずかしさに悶えておりますが。

…という事で、過去に書いた小説をブログ形式に変換して投稿していく企画。小説自体のタイトルは映画のような人生をです。

全部で39章分あるのですが、今回はその中で第十章「大学生」をお送りしたいと思います。よろしくどうぞ。

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【ブログ小説】映画のような人生を:第十章「大学生」

ブログ小説-映画のような人生を-大学生-あらすじ

「伊波、こっちや、こっち」と、千葉は周りにたくさんの食事中の学生がいるにも関わらず大きく手を振りながら大声でぼくを呼んだ。ぼくは少し恥ずかしくなったが、求められている気がして悪い気はしなかった。

「遅れてしまってすいません。それにご飯も食べてなくて」

 千葉と向かいの席に座っている人の後ろ姿に声をかけてから前に周り、千葉の横に座る。生姜焼き定食のいい香りがその席に広がった。

「いえいえ、こちらこそ急に呼び出した形になってしまったようで」とその人は言った。

 その声の主の顔を見た瞬間、ぼくは息が止まるかと思った。昨日、散歩中に見かけた涙の女性だったのだ。

 今日も昨日と同じように、この蒸し蒸しする気温には不似合いな厚手の赤いコートを羽織っていた。しかし、昨日と違うのはぼくがこんなにも近くで彼女を見ているという事だ。

 やはり彼女は綺麗だ。近くで見れば見るほどさらに魅力を増す。

 雪のように透き通る肌と対照的に、吸い込まれるほどの黒い髪。肩の所で綺麗に切りそろえられたまっすぐな髪は蛍光灯の光を反射して光り輝いている。

 そして隆起のはっきりとした柔らかそうな頬。中性的で凛々しくも、あどけない印象も兼ね備える眉。すっと一本、鼻筋の通った鼻。唇はふっくらとして形もよい。採りたての桃のような唇だった。目と鼻と口の位置バランスは見事と言うしかないほど整っている。

 時折、黒髪の間から見えるとても小さな耳は、謙虚さの表れのような気がして愛らしい。化粧はあまりしていないようだ。それでも見た者の心を離さない不思議な魅力を持った女性だった。

 しかし、一つだけ気になることがある。目だけが捉えようのない所を見ているのだ。ぼくに向かって話してくれていても、ぼくが透明人間にでもなってしまったかのように、その目線はぼくを通過して、さらにぼくの後方を見ているようだった。瞳の色も、まるで色を失ってしまった世界の住人のように儚く薄い色をしていた。

 ぼくは彼女のそういった特徴にぎくしゃくしながらも、もう一度会えたことに感動と興奮を覚えていた。これは運命かもしれない。などと、思春期の年頃の子が言いだしそうな言葉を頭に思い浮かべると、頬が勝手に持ち上がった。

「伊波、こちらの女性は千秋ちゃんや。水谷みずたに千秋ちあきちゃん」

 にやけているぼくを横目に、千葉はぼくにその女性を紹介し「こちらは伊波。伊波なんやったけ?」と千秋さんにぼくを紹介した。

伊波いなみ春人はるひとです」とぼくは、名前を付けくわえて自己紹介をした。

「はじめまして、伊波君」

 千秋さんはやはりぼくの少し後ろを見ているように言った。

「千秋さん、はじめまして」

 ぼくはたどたどしく、そう言った。はじめてではないんです、本当は。

「伊波君は、何学部なのかしら」

「あ、ぼくは文学部です。最終的にはロシア文学か日本文学を専攻しようと思っています」

「あら、それじゃ私と一緒なのね。文学部なのか。ロシア文学というとドストエフスキーとかゴーゴリ、トルストイとかお好きなのかしら」

 千秋さんが、一緒なのねと言ったことに心が三歩前に跳ねた。これは本当に運命かもしれない。

「はい。ロシア文学の中ではドストエフスキーを主に専門に読んでいます。日本文学でいえば芥川が好きなんですけどね。千秋さんの専門は? もしかして、ドストエフスキーだったりします?」

 千秋さんに質問をしながら、すべてが一緒だったらいいなと願った。神様に願った。

「あ。いいえ。私、専攻はフランス文学なの。文学部なのは一緒だねっていう意味でした」

 少し申し訳なさそうに千秋さんは言った。

「そうでしたか。はやとちりしてしまいました。すいません」

 心の動揺を隠しきれなかった。世界が急に真っ暗になった気がした。神様なんていないじゃないか、畜生。

「いえいえ、こちらこそごめんなさい。専門はロマン・ロランとボードレールを勉強して、卒論でどっちの作家にしようか迷っているところ」

「あ、ロマン・ロランと言えばジャン・クリストフの作家ですね。あの作家、トルストイと文通をしていたんですよ。だからロシア文学とも無関係ではありませんね」

 必死でロシア文学と関係を持たせようとしている自分が馬鹿らしかった。

「盛り上がっている所、ごめんやけど、俺には全く話についていけんから、本題に入ってもらって構わないっすか。俺、心理学専修やし」

 千葉が口を挟んだ。

「あ、うん」

 ぼくと千秋さんは同時に言った。その偶然に二人は顔を見合わせ笑った。ぼくはすごく幸せな気分になった。世界が明るくなった。千秋さんはぼくの心のスイッチだなと思った。

 神様ありがとう。

「千葉君には昨日ちょっと話をしたんだけどね、伊波君は大学で何かやりたい事ってある?」

 千秋さんは本題に入る合図とでもいうように赤いコートを脱ぎながら言った。薄手の白いシャツになった千秋さんにぼくはどきりとした。無重力になったかのようにぼくの心はふわふわする。

「大学で何がやりたいかを探している最中です」

 鼻を掻きながらぼくは素直に答えた。

「そう。私はね、今年、大学三年生になったのだけれど、二年間かけても大学でやりたい事は特に見つからなかったの。大学じゃなければ出来ない事って実は意外に少ないのよ。社会人になってからの方が出来る事って増えるだろうし、大学で学んでいる学業って実は、時間さえあれば自分で学べちゃうものがほとんどなの。だからね、私は大学生だからこれをやりたい、あれをやりたいって考えるのは辞めたのね。あ、もちろん教育者になりたいとか資格取りたいっていう場合は別なのだけれど。伊波君は教職きょうしょくの授業とか取っていたりする?」

「いいえ。学校の先生とか自分には向いていないと思うので教職は取っていません」

 正直に答えた。ぼくは何も持っていないし、何も教えられない。教師にはなれそうもない。

 自分の教師の可能性を否定しながら、もう一方では千秋さんが三年生と言ったのを聞いて納得していた。千秋さんはすごく大人びて見える。こういう人が先生だったなら……。ぼくは妄想を途中でやめた。いつまでも続けられそうだったからだ。楽しいけどやめた。

「そっか。それじゃあ、大学生である必要はないのね」

「えっ」

 千秋さんが言ったことに動揺した。大学生になった事を否定された気がした。都会に出てきたことが間違いだったのだと言われた気がした。やはりそうなのだ。失敗した。ぼくは失敗したのだ。

「あ、いい意味でね。大学生って微妙な位置なのよ。高校生よりも自由だけど、社会人よりも出来る事が少ない。学生だけれど、学ぶことも少ない。高校生は受験とかあったから、みんな必死で勉強していたでしょ。でも大学生は特に出口で待ち構えている試験みたいなものには直結しないものばかりを勉強しているわけ。それなのに四年間も時間を与えられている。その四年間で資格を取ったりする人以外は、実際、大学生である必要はないのよ。フリーターでもいいわけ。でもね、フリーターで四年間もブラブラしていると周りに体裁が悪いから大学生という名札を付けている学生がほとんどだと私は思うのよ」

 千秋さんは胸に名札が付いているようなポーズを取った。

「なるほど確かにそうかもしれませんね」

 千秋さんの言う事を聞いているうちに視界は明るくなる。すぐに凹み、すぐに浮かれる。ぼくはなんて不安定なんだろう。

 ふと千葉の方を見ると誇らしげにうんうんと首を縦に振っていた。千葉は落ち込む事なんてあるのだろうか。千秋さんは話を続ける。

「ただね、それでもその四年間を何に使うかを私は大学生になりたての時にはずっと考えていたの。だってフリーターではなく、大学生になることを選んだのだもの。はっきり言って、四年間という許された時間をお金で買ったようなものだわ。モラトリアム期間ね。その時間を無駄にしちゃダメだって思ったの。最初は勉強に力を入れてみた。でもね、さっきも言ったけど、ここで学べる勉強って今やる必要はないのよ。今の自分がやるべき事、やらなくちゃいけない事をやりたい。そう考えた時に、何も見当たらなかった時は、ちょっと焦ったわね。だから大学生として自分に出来る事っていう枠組みで考えるのを辞めてみたのね。物事を考える時、行き詰ったら前提を見直せ、っていうのが私の大好きなおばあちゃんからの教えだったから」

「なるほど。勉強になります」

 相槌を打ちながらぼくは千秋さんの声に聴き惚れていた。まるで英語の発音のように流暢に流れる千秋さんの声は聴いていて心地良い。

 ぼくは千秋さんの続きの言葉を待ちながら、生姜焼き定食に手を付け始めた。

【ブログ小説】映画のような人生を:第十章「大学生」あとがき

ブログ小説-映画のような人生を-大学生-あとがき

大学生というサブタイトルを付けましたが、今回は元の小説のまんまのサブタイトルです。

毎回、このサブタイトルをどうしようかと悩むんですが、前回の「ヨーグルト」というシンプルなものが意外とウケが良かったので、今回もシンプルに「大学生」のまま行かせてもらいました。

僕の癖として、「漢字+カタカナ」みたいなサブタイトルを付けたくなるんですけどね。「大学生モラトリアム」とか「文学シンポジウム」みたいな。

しかし、振り返ってみるとサブタイトルで漢字+カタカナを採用しているのは、第五章の「サイダー日和」だけでした。

ブログではタイトルが重要だって思い込み過ぎなんですかね。正直、どういうタイトルを付けたから読まれている、このタイトルでは読まれないという傾向が全くわからなくなっております。

ブログ小説の上では、タイトルなんてどうでも良いのかもしれない。

もうぶっちゃけ「【ブログ小説】映画のような人生を:第十章」だけでも良いのかもしれないと思うようになりました。サブタイトルを付けずにね。

読まれているものと読まれていないものの違いがわかりません!

でもひとつだけ確かなのは、僕が普段書いている記事よりも読まれているという事です。普段の僕の記事の立場って一体…。

それは本当に意外でしたね。ブログ10年以上やっているのに、10年前に書いた小説の方が読まれている。僕のブログ歴とは一体なんだったのか。

まぁ、どんなこともやってみないとわからない事があるって言うことで良しとしましょう。ぶっちゃけ他の記事も書きたい衝動に駆られてはいるんですが、ひとまずはブログ小説を進めたいと思います。

ではでは、【ブログ小説】映画のような人生を:第十章「大学生」でした。

野口明人

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

…それにしても、千秋ちゃんは良く喋るなぁ〜。

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【ブログ小説】映画のような人生を:次回予告

ブログ小説-映画のような人生を-次回予告

注意:

ここから先は次回の内容をほんの少しだけ含みますが、本当に「ほんの少し」です。続きが気になって仕方がないという場合は、ここから先を読まずに次回の更新をお待ち下さいませ。


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クリックして次回の内容を少しだけ表示する

「そうやって見えてきたものは人生単位で物事を考える事。物事を四年間という小さい単位で見るのではなく、一生という大きい単位で見てみるの。するとね、結局自分探しっていう問題にあたるのよ。伊波君は、人の一生の価値って何で決まると思う?」と千秋さんはぼくに質問をしてきた。

次回へ続く!

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