ブログ小説の二十六回目の更新。逃避について。
逃避したくなる時ってどう対処していますか?そもそも何かから逃げ出したくなる事ってありますか?僕は逃げ出したくなることしばしばです。
昔はそんな事なかったんですけどね。いわゆる逃げグセっていうんですかね、そういうのがついてしまっていて、何か自分に都合が悪いことがあったりすると、すぐにその場から逃げ出すようになりました。
しかし。『逃げるは恥だが役に立つ』っていう漫画を原作としたドラマが大ヒットしたように、逃げることは悪いことばかりではない気がします。
逃げずにぶつかってばかりいた時代よりも、心の安定はしている気がします。自分を立てるからぶつかるのです。その場から身を引けば、ぶつかることもありません。
自己主張?自分がない?そんな事ありません。自分の主張は自分にすればイイのです。内側へ内側へ。それもひとつの道なのではないでしょうか。
…という事で、ここからは過去に書いた小説をブログ形式に変換して投稿していく企画。映画のような人生をというブログ小説をお送りします。
全部で39章分あるのですが、今回はその中で第二十六章「逃避」をお送りしたいと思います。どうぞよろしく。
【ブログ小説】映画のような人生を:第二十六章「逃避」
ぼくも寝煙草というものをやったことがあるが、これは寝煙草というような緩やかな状況ではない。一つのグループが一心不乱に煙を吸っている。
部屋には一台のテレビが設置され、砂嵐が流されていた。ザーッと聞こえる音。不思議なのはそのテレビはアルミホイルで覆われ、所々空いた小さな穴からテレビの光が漏れている。
すべての人がその光の方へ顔を向け、横になりながらパイプを吸っていた。部屋には甘い香りとお香をたいたようなエスニックの香りが入り混じったような不思議な匂いが漂っていた。
「とりあえず、今から道具持ってくるから伊波君は適当な場所に寝そべっていてくれるかい?」と高橋さんは言った。
ぼくは言われた通りに空いた場所を見つけ、横たわってみる。すると目の前にどこかで見たような黄色いドレスの背中を発見した。それが日下部さんだった。横たわってはいたが確かに見覚えのある背中だった。首には白いスカーフも巻いている。前に会った時とまるっきり同じ服装だった。
「あれ? 日下部さんじゃないですか?」と声をかけた。
しかし、日下部さんはこちらを見ることはせず、一心にパイプを吸っていた。聞こえなかったのかもしれない。周りはテレビの砂嵐の音が鳴り響いていたし、ぼくの声も周囲に気を使っていたためか小さくなっていたはずだ。ぼくは日下部さんと思われる女性の肩をたたき、もう一度呼びかける。
「日下部さん、お久しぶりです」
しかし、やはり返事はなかった。ぼくは諦めることにした。久しぶりの挨拶をするだけの話だったし、無理に喫煙を邪魔するものでもない。ここはそういう個人の時間を楽しむ場所なのかもしれない。わからない事は自分の判断で行動してはいけない。周りを理解することが大切なのだ。ぼくはこのサークルでそう学んだ。
そんな事よりも早く煙草が吸いたかった。イライラしていると高橋さんがぼくの肩を叩いた。彼は大きな体で大きなパイプを担ぎ、パイプを担いでいない方の手で小さな小皿を持っていた。
道具を手渡されよく見てみると、大きなパイプの方は竹で出来ているようだ。側面に何かが彫ってあったがなんて書いてあるのかはわからない。少し凝ってある趣向のようで確かにこれで煙草を吸うとなると雰囲気に浸れるだろう。
それにこの大きさなら横たわって吸った方が吸いやすいのかもしれない。もう一方の小皿の上には真っ黒な色をした何かの佃煮ような塊だった。
続いて高橋さんはぼくにろうそくを渡し、マッチでろうそくに火をつけた。何とも遠まわしで面倒くさい吸い方をするもんだなと思ったが、趣味というものはそういうものなのかもしれない。他の人が無駄だと感じることに魅力を感じるからこそ趣味と言うのだ。
高橋さんは小皿の上から黒いねっとりとした塊を一つまみ掬い取り、パイプの先の方に入れた。
「昔はこうやって吸っていたらしいよ」と動きをレクチャーしてくれた。
ぼくは言われた通りにろうそくの火で煙をおこし、煙を一気に吸い込んだ。その瞬間、日下部さんがこちちの方を見て笑いながら「私は伊藤だよ、伊波君」と言ったような気がした。
ぼくは意表を突かれた事もあったのか、煙がきつかったのだろうか。すぐに咽てしまい苦しさが胸を襲った。ぼくの咽ている姿を確認した後、高橋さんは当たり前のようにぼくの前から姿を消し、日下部さんは何もなかったかのように前を向いて煙を吸った。
普段から重い煙草を吸っているつもりだったが、いつもの煙草の比ではなかった。口の中に苦さが広がり、なぜこんなものを口に含んでいるのかわからなくなった。
急に咽た事で呼吸が苦しくなり酸素を望む。するとまた新しい煙が口に入ってくる。その連鎖が繰り返されたのち、苦しさなんてどうでもよくなってきた。
煙草を吸えない事のイライラや、千葉や千秋さんを失う事の恐怖、両親に関する申し訳なさ、大学に対する不満、今後の自分に対する不安。孤独。憎悪。そのすべてが一気に頭を駆け巡り一気に去って行った。
ぼくの頭の中はからっぽになった。何も考える必要がない。考える物事が頭の中にないのだ。今までの自分は何だったのだろう。小さなことをくどくど考え、悩み、立ち直り、そしてまた悩む。その繰り返し。
頭の中をからっぽにするだけでよかったのだ。ぼくは考えていたのではない。悩んでいたに過ぎなかった。これからはもう悩むことはない。
それが真理のように思えた。
【ブログ小説】映画のような人生を:第二十六章「逃避」あとがき
さてさて。逃避についての内容だったので、今回は少しそのことについて。
僕には仲良くしているグループがひとつだけあるんですが、まだ皆が独身だった頃の話です。
5人組の中から、あれよ、あれよと結婚していき、結婚式の予定が持ち上がってきました。
僕はそのグループの一人にこう言われたのです。
「○月に結婚式をする予定だから、野口頼むからそれまで病まないでくれよ」
大丈夫っすよ!最近、精神的に落ち着いていますし!と、統合失調症で病院に通っていた僕は答えました。
しかし、その実、本当はかなり精神的に不安定な時期でした。
周りの変化についていけなかったのです。地元が近かった5人は度々集まって遊んでいましたが、2人が結婚する事をきっかけに地元から離れました。
今まで5人で集まっていたものが、3人だけになり、僕はその3人だけの集まりの時に、変化をマジマジと感じてしまい、絶えきれなくなりました。
このグループがなくなったら、また僕は孤独に戻ってしまう。きっと1人、また1人と結婚していく事だろう。それならいっそ、自分の方から消えよう。
そんな事を考えたと思います。
頭がパニックになり、僕は大宮駅をダッシュで駆け回りました。僕を心配した2人は僕を追いかけて来てくれましたが、それさえも恐怖になり、警察に駆け込みました。
追いかけられてます!助けてください!
僕の頭は完全にパンクし、どれが幻聴でどれが現実なのかわからなくなりました。そのまま僕は病院へ。
僕はグループのみんなから離れました。当然ながら2人の友人の結婚式には参加出来ませんでした。
それから3年間、僕は病院に通い続け、しっかりと統合失調症と向き合おうと決めました。
しかし、自立支援の施設に通いながらも、パニックを起こしてしまい、病院で入院を勧められました。
僕は今までやってきた事が無意味になってしまうと思い、入院したくないと駄々をこねると、先生の言うことを聞かなかったという事で診察拒否。病院からも見放されました。
そしてもう誰にも頼らない、自分一人で病気と向き合う事を決意。四国遍路へ向かいます。
その頃の事はこのブログの中にも書いてあるので、詳しくそちらを参照してもらいたいのですが、そこで出会った人たちのおかげで自分を見つめ直す事が出来るようになりました。
家に戻った僕は、グループの一人に声をかけ、食事をすることになりました。
するとどうやら、僕が抜けた後の4人はバランスが崩れ、崩壊したというのです。崩壊という言葉が抽象的過ぎますね。4人で集まった時に喧嘩をし、1人がそのグループを抜けてしまったらしいのです。
たしかに僕ら5人は皆が皆、仲が良いというわけではなく、性格的に合わない部分もあるけれど、僕がクッションとなっていておかげで仲が良かったという感じがしないでもありません。
僕がいなくなった事で、クッションがなくなり、性格の合わなさが露呈してしまったのでしょう。こんな風に書いていて、自分の重要性を強調している気がして気が引けますが、実際に僕はこの時に初めて、自分の役割を認識したのです。
しかも抜け出た一人は、そのグループの2人の愛のキューピット的存在。彼がいたから2人が結婚出来たのですが、その結婚式に彼が出ていないとは…。
自分勝手ではありますが、僕はその時に、あー結婚式に出ていないのは、僕だけじゃないのか。ちょっと気が楽になったかも。と思いました。
そしてこれは僕がこのグループに戻るための試練なのかもしれないと勝手に思い、抜け出た一人とコンタクトを取り、なんとか5人グループに戻れないだろうかと打診する事にしました。
まぁ、それからなんだかんだ一悶着あり、修復にはさらに2年ぐらい掛かりましたが僕の逃避から5年。再び5人は仲良く遊ぶようになりました。
かなり多大なる迷惑をかけた気がしますが、今ではそれは必要な事だったんだと思えるようになりました。
僕らは水。くっついたり離れたりもするでしょう。器が変われば、僕らの形も変わるでしょう。しかしそれらに柔軟に対処出来るのです。
ふつふつと煮えたぎり、喧嘩して蒸発する事もあるかもしれません。でも、それらはどこかで頭を冷やし、雨となり大地を流れる川となり、再び同じ場所に戻ってきます。
今では5人中3人が結婚し、僕とあともう1人が独身ではありますが、その1人がもし結婚をするとなったら、その時はもう逃避せず、友人の結婚式に初めて参加したいと思います。
形が変われど、僕らの存在自体が変わるわけではない。
そう思えるようになったのは、逃避して、どこかで頭を冷やしたからだと勝手に思っております。だから逃避も時には必要なのです。
ではでは、【ブログ小説】映画のような人生を:第二十六章「逃避」でした。
野口明人
ここまで読んでいただき本当に、本当にありがとうございました!
【ブログ小説】映画のような人生を:次回予告
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体が地面に吸い寄せられる。重力に逆らわず、神様がお前は飛ぶ必要がないのだよと優しく背中を撫でてくれているようだ。
次回へ続く!
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