【ブログ小説】映画のような人生を:第三十三章「独占」

ブログ小説の三十三回目の更新。独占について。

独占と言えば、昔から少し疑問だった事があります。法律で独占禁止法ってあるじゃないですか。それと同時に特許法ってあるじゃないですか。

この2つって矛盾してるように思えないですか?だって、独占を禁止するって言っているのに、特許とったらそれを他の人が使用しちゃいけないわけで、それって言い方を変えたら独占って事になりませんか?

…なんて事を疑問に思った僕は調べてみたわけです。そもそも独占禁止法はなぜ存在するのか?それを考えてみると先程の矛盾は消え去ります。

その詳しい事はこの記事の後半部分で。

…という事で、ここからは過去に書いた小説をブログ形式に変換して投稿していく企画。映画のような人生をというブログ小説をお送りします。

全部で39章分あるのですが、今回はその中で第三十三章「独占」をお送りしたいと思います。どうぞよろしく。

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【ブログ小説】映画のような人生を:第三十三章「独占」

ブログ小説-映画のような人生を-独占-あらすじ

 加藤は挨拶を終え、マイク近くにいた男の人と話をしていた。ぼくは気持ちが高ぶっていたのもあって、楽しそうに話をしているにも関わらず話を割って声をかけることにした。

「ども。おひさしぶり」と声かけたのはいいが、加藤と呼べばいいのか神田さんと呼んだ方がいいのかわからなかった。また神田さんなら敬語を使った方がいいのか敬語じゃなくてもいいのかもわからなかった。だからなんとなく変な言葉になってしまい、語尾もぼそぼそと「です」を付け加えた。

「あ、伊波君ですね。はじめまして」と加藤は言った。

「え。あ、はじめまして」動揺してそう答えてしまった。すると加藤は傍にいた男性に耳打ちをし、右手を挙げて合図をした。その男性はぼくらから離れていき、ぼくと加藤は二人だけになった。

「伊波じゃん。もう体の方は大丈夫なのか。お前、だいぶ痩せこけたな。マッチ棒みたいだ」急に砕けた口調で加藤が聞いてきた。

「うん。体の方は大丈夫だ。え? でもそれは誰から聞いたの? ていうか、なんで加藤が神田さんなの? 不思議な事いっぱいで少し困っているよ」

「加藤っていうのは俺の前の名前。確か説明会の時に聞いただろ? 神田っていうのは母親の方の姓なんだよ。それと伊波が大変だったのは、水谷から聞いたよ。」

「水谷って?」

「水谷千秋。知ってるだろ? 確かお前を勧誘したの彼女じゃなかったっけ?」

「あ、千秋さんの事か。そういえば水谷っていう苗字だったな。千秋さんは千秋さんって呼んでいるからすっかり苗字を忘れていて水谷って言われてもピンと来なかったよ」

「お前、聞いた人の苗字ですら覚えていないんだったら俺が神田と名乗ろうが加藤と名乗ろうがあんまり変わらないんじゃん」と加藤は笑った。

「いやいや、それに関しては全然問題が違うよ。結局お前は神田さんなの?」

「どうやってお前が人を認識しているかわからないけど、俺はここのサークルの代表をやっているよ。ただ、俺もサークルを楽しみたい人間だから名前舞踏会とかその他のイベントには加藤っていう名前で参加している。

 名前を変えるだけで周囲の人間の対応が変わってくるっていうのは面白いもんだよな。神田っていう名前を出しちゃうと、ここでは先輩扱いされちゃうけどさ、加藤っていう名前で参加するだけでみんなと垣根なく話せるんだぜ。伊波も俺と普通に話しているだろう? これが神田って名前を最初に名乗っていたら対応も変わってきてしまう」

 千葉が言っていたことはほとんど当たっていたわけだ。ぼくは自分の推測の浅さを心の中で嘲笑った。

「説明会の神田さんの言っている事にも納得できたし、その後のメッセージも胸を打ったから、神田さんはすごい人なんだって認識だったな。だから初めてお会いする日が来たら沢山の事を聞こうと思っていたんだけど」

「でも、その言葉を考えているのは俺であって」と加藤は自分の頭を人差し指で示し、「神田という名前の俺じゃなく、加藤という名前の俺でもいいわけなんだよ。でも、伊波は俺には敬意を払わない。目の前に神田と同じ思考をする奴がいたのに、加藤という名前だけで伊波は俺を別人だと認識した。

 人間って一体何なんだろうな。名札だけが一人歩きしていて、それで判別されちゃうんだぜ。これじゃ刑務所に入っている奴らが認識番号で呼ばれるのと同じだよ。一番と四番が入れ替わった所で誰も気がつかない。名前って便利といえば便利だけど、奇妙と言えば奇妙だと思うよ。

 名前のついていない人なんていないだろ? 生まれた時に強制的につけられてしまう。生まれてくる事や両親を自分で選べないように、名前を付けないでくださいっていう事も選べないんだよな」

「でも、江戸時代より前の人は名前がなかったんじゃないの?」

「いや、それは確か苗字の話だな。苗字帯刀ってやつだろ? 江戸時代の武士の特権で苗字を名乗る事、刀を持つことを許されたやつだ。

 名前自体はさ、昔からみんなについているんだよ。日本最古の歴史書の古事記とかそのぐらい古い書物にすら名前が存在する事がわかる。

 でもさ、俺らその時代の人なんて会った事もないじゃん? 中身も何も知らない。その人が何が好物だとか、どういうタイプの異性が好きだとか全く知らないのに名前だけ聞いてその人を認識している。名前だけ知っていればその人を知っているなんて勘違いしちゃうんだよ。

 例えばさ社会人が出会いがしらに、自己紹介のように名刺交換なんてするじゃん。あれなんて、絶対名前書いてあるもんな。自分を表す顔の特徴とか身長がどれぐらいだとか、自分のアイデンティティはどこにも書いてないの。あれのどこが自己紹介なんだろうね。

 下手したら後で名刺を見返した時に顔は出てこないけど、どこどこの会社の何某って書いてあるから知り合いだ。なんて事だってあるわけだよ。顔わかんない奴が知り合い? そんな馬鹿な話あるかよ。

 俺は名前が俺なんじゃなくて、俺の心と体が他の人と違うから俺なんだ。ロボットじゃないんだから体も違えば心も違う。でも世の中の奴は名前を伝える事しか自己証明が出来ない。そもそもが学校で自己紹介する時もみんな決まって名前から言うように教わっているしな。

 名前って何なんだろうな。なんで名前のない世界、国ってないんだろう。名前なんてもんはさ、人に先入観抱かせるだけの邪魔な存在だと思うんだよな」

 加藤は少し淋しそうに言った。

「なんで加藤はそんなに名前にこだわりがあるんだ? 自分の名前が嫌いなのか?」

「伊波、お前、下の名前なんて言うの?」

「ぼくは春人だよ。伊波春人」

「ハルのヒトか。いい名前だな。春に生まれたのか?」

「そうだね、ぼくは四月生まれだ」

「名前ってのはさ、この世の中で一番短い詩なんだよ。そこに願いや想いが込められていて、それを一生背負っていく。もちろんいい名前が付けられたらそれは嬉しいのだろうけど、俺は願いや想いが強すぎて、潰されそうになった。それに社会常識にも反している名前だと思う」

「神田さんの話では、母親に付けてもらった新しい名前は確か龍之介だったよね。加藤はどういう名前だったの?」

「笑わないか?」

「笑える名前なんてあるのか? さっきも自分で言っていたじゃないか。世の中で一番短い詩なんだろ。人が大切に考えた想いを笑えるはずがない」

「俺の名前な、加藤夏美だ。夏のように美しくという意味だそうだ。夏は嫌いではない。でも夏生まれでもない。俺も誕生日は四月なんだ。両親の出会いが夏の季節だったようで夏という漢字をつけたかったらしい。なのに大抵は夏生まれだと勘違いされる。俺の人生には何にも関係ないんだ、夏という季節は。

 でもそれはまだいい。それよりも俺は美しいか? 美しさを求めないといけないのか? 願いや想いがこもっているのかもしれないが、俺は美しくなどなりたくない。

 それにこの名前はどうしても女性だと勘違いされやすい。小学生の時なんてかなりその事でいじめられた。俺が付けたわけじゃないのに。

 だからほとんどの時間は図書館で過ごした。もちろん説明会でも話をした通り、その時間が後に非常に役に立っては来るのだけれど、俺は名前に呪われていたんだ。親が決めたレールの上を歩かされている気分だった。

 なぜ自分の人生の指針を勝手に決められないといけないのだろう。子供は親の所有物なのだろうか。俺は俺の思うように進み、失敗してもいい、挫折してもいい、何度も失敗と挫折を繰り返しながら自分の望んだゴールにたどり着きたいんだ。

 なのになぜだろう。名前が俺の邪魔をした。名前は一生背負っていかなければならない鎖だからね。戸籍に残った名前は消えはしない。

 小学五年生の時に父親が麻薬をやって捕まった。そんな父親が付けた名前、夏美。だからねこんなサークルを開こうと思った。ここだけでも名前を自由に変えられる世界を作りたいと思って」

「夏美か。いい響きだと思うけどな。女性っぽいか。確かにそうかもしれない。でもぼくの周りにもなつみ君はいたよ。夏の海って書いて夏海だったけど。さわやかでいい人だったな。あ、でも泳げないって言っていたっけ」

ぼくは夏海くんが学校のプールでいじめられていたことを思いだした。

「そうか。夏の海で夏海か。まだその方がかっこいい気がするな。その人はいじめられたりしていなかったか?」

「確かにプールの時に、泳げないのかよって無理やりプールに落とされたりはしていた」

「だろ? 泳げない奴なんて他にもいたはずなんだよ。それなのに名前のせいで勝手に先入観持たれて、悪いように捉えられてしまう事がある。そんな邪魔な物なら名前なんていらない。俺、お前で伝わるじゃないか、会話の時だって」

「うーん。でも第三者に話す時はどうしたらいいのかな」

「その時は名前じゃなくてあだ名でいいんだよ。夏目漱石の坊っちゃんにも出てくるじゃないか。『赤シャツ』だったり『野だいこ』だったり『うらなり』だったり、それぞれそのあだ名で呼んでるだろ? それで充分伝わるもんなんだ。親が与えた勝手な価値観の押しつけよりも自分の特徴を捉えてついたあだ名の方が自分でも納得がいく。

 俺はね、親に感謝していないわけじゃないんだ。ただ世の中がどうしても、生まれた所とか家系とか自分とは関係ない特徴、どうしようもない特徴で判断したりするから嫌なんだ。人間って肌の色とか瞳の色、人種で差別したりするだろ? 名前も一緒。俺が付けたわけじゃないの。両親がこの子供は私達のものですって勝手につけたの。名前なんてもんは独占欲の証明でしかない。それが嫌なんだ」

「独占欲の証明って?」

「たとえばペットに名前を付けるじゃないか。あれだってこのペットは私のものですって言っているに過ぎない。自分のものと証明したいものには名前の命名権を行使するのさ。独占欲っていうのは人間のもっとも汚い感情の一つだね。

 しかし一方で、もっとも美しい感情の裏返しだからなおのことたちが悪い。独占欲があるから戦争なんてものが起きる。ただ、戦争で守るものはなんだ? 自分の国や家族、愛する者だったりするだろう? 独占欲の裏返しが愛なんだよ。

 たとえば伊波が猫を飼ったとするよな。そしてタマと名付けたとしよう。前にもこのイベントで神田として言ったと思うけど、名前を付ける事は愛情を持つ事なんだ。

 でもその愛情を誰かに奪われそうになったらどうだろう。俺が伊波のタマに対してモモと呼び続けたらどうだ。伊波の中で何かを侵食された気がするはずだ。愛情を持っているからこそ誰にも取られたくない。でも誰にも取られたくないという感情が独占欲を生む。ただ、ここで考えてみて欲しい。その猫は一体誰のものなんだ」

「それは最初に飼ったぼくのものなんじゃないかな」

「そういう考えだから戦争がなくならないんだって」

「そんな大きな問題なのか?」

「もう一度考えてみろ。その猫はその猫のものじゃないのか? 地球は地球のものじゃないのか? 海は海のものじゃないのか? 空は? 星は? この世の中にあるものすべて、その存在のものじゃないのか? 一番最初に見つけたらそれはそいつのものになっちまうのか?」

「うーん。猫は命があるものだからその猫のものってのはわかるけど、その他の空とか星とか規模が大きすぎて今一つピンと来ないな。そういうものなのかな。地球は地球のものか。考えたことなかったな」

「何かが誰かの所有物だっていう考えはさ、上下関係が出来上がるじゃないか。主従関係っていうかな。でもさ、人間と地球どちらが大きい存在かといえば地球じゃん? 人間と海だったら海じゃん? 猫にしたって人間が出来ない事出来るんだから、人間が必ずしも上だとは限らないと思うんだよ。

 人間の一番悪い所って自分だけが特別だと思っている所。共存っていう考えがないんだ。常に自分が一番上にいるっていう考え。傲慢だよ傲慢。傲慢さが人間から無くなってくれたなら、歴史の教科書は十分の一ほどの薄さになっていたと思う。

 傲慢が争いを誘って自分たちで自分たちを滅ぼしてきたんだと俺は思う。歴史は何の為に存在するのか? 同じことを繰り返さない為だ。教科書の厚みは俺らがそれだけ反省することがあるってことなんだよ」

「なるほど。ドイツのヒトラーのような話だな」

 ぼくは前に千秋さんが話をしてくれた事を思い出していた。

「そうだな、ヒトラーの話ひとつ取っても、現代の人間は何も学んでいないんだ。傲慢さの塊でしかない」

「どういう所が傲慢さの塊なの?」

「伊波はさ、ヒトラーの強制収容所の話はどこまで知ってる?」

「ついこの間、千秋さんにヒトラーの話を聞いたから、とりあえず大まかには理解しているつもり」

「それじゃ、伊波はユダヤ人とドイツ人どっちが優れていると思う?」

「それはどっちも優れているんだよ。加藤も神田さんのメッセージに乗せて言っていたじゃないか。私は特別。あなたも特別。どっちかが優れていてどっちかが劣っているっていう価値観を持ったから、ユダヤ人大虐殺なんていう悲しい事が起きたんだ。同じ人間同士なんだ。優劣なんて存在しないし、そういう価値観は持っちゃいけない。そういう事を歴史から学べる」

「そうか。伊波は大まかな事は理解しているんだな。それならさ、伊波がこの間吸っていたアヘンはいいもの? 悪いもの?」

 そう加藤に言われてドキリとした。なぜ加藤はぼくがアヘンを吸った事を知っているのだろう。千秋さんから聞いたのだろうか。それとも。さっき千葉に否定された犯罪集団アノニムの推測がちらっと頭を過った。

「それは、悪いものに決まっているじゃないか」

 自然と声が大きくなってしまっていた。

「なぜだい? なぜ悪いものだと決まっているんだい?」

「それは何かと比べるような比較対象もないし、あんなの吸ったところで身の破滅を生み出すだけだ」

「そうか。伊波はやっぱり傲慢さの塊だ」

「なんだと」手に力が入った。

「いいかい? アヘンはどうやって作られるか知っているか?」

 ぼくはそう言われて、吸っていた時に見た、あのどろりとした塊を思い出した。

「アヘンの実からなるんじゃないのか」

「伊波はまだまだ勉強が足りない。アヘンっていうのはね、けしの花から出来るんだよ。英語ではポピーっていう花だね。聞いた事はあるかい?」

「ポピーもけしの花もよく聞く名前だ。ヒナゲシとかね。夏目漱石の『虞美人草』はヒナゲシの別名でしょ」

「そうだね。そのけしの花が落ちた後に出来る果実を未成熟のうちに傷つけると乳液上の樹脂が取れる。それを乾燥させた物がアヘンだ。もちろん伊波が吸ったような物になるまでにはまだ複雑な工程を必要とするけどね」

「そもそも、なんで加藤はぼくがアヘンを吸った事を知っているんだ?」

「だって俺、神田だよ? ここのトップだよ? なんでも知っているに決まってんじゃん。それに伊波にアヘン吸わせるように仕向けたのは俺だし」

「え?」体の中で何かが軋む音がした。

「まあ、話はまだ途中だ。ではこのアヘンの中には実はもう一つ重要な成分が含まれている。それが何かわかるか?」

「ごめん、あんまりアヘンについては詳しくないんだ」

「あんなにスース—吸っていたのにか。知らない物をよくも体の中に取り入られるものだ」

 加藤の言葉はさっきから何度もぼくの心に棘を刺す。

「あれについては最初、煙草だと思っていたんだ。アヘンだなんて知らなかったんだ」

「無知は時として罪になる。知らなければいいってもんじゃない。そもそも煙草についてもよく知らずに吸っているんだろう? あまり感心できないね。例えば腐っているものだったら伊波は口に入れないだろ?」

「もちろん、お腹を壊すからね。腐っているなら食べない」

「では納豆についてはどうだ。あれは腐っているけれど食べられる物だ。でも今、伊波は腐っている物は口に入れないと言ったよな」

「それは屁理屈なんじゃないかな」

「いや、一緒だよ。もちろん納豆の場合は腐っているのではなく、発酵しているから体に害がないんだけれどね。人はね腐っていても食べる時だってある。それは理解しているからだ。体に影響ないと理解しているから。選んでいるんだな。腐っているから食べないのではなく、体に影響がないから食べようと自分で決めるんだ。

 もちろん体に影響があったとしても食べる時もある。例えば辛い物。あれは辛いという味覚の一部になっているけれど、辛いというのは舌が軽い火傷を起こしている状態なんだ。火傷だぜ? 普通は火傷なんてしたくないよな。でも理解した上でそっちが大切だから辛い物を食べることを選ぶんだよ。

 煙草についても害になるって事は理解している。理解している上でそれでも吸う事にメリットを感じる事があると自分で選んだから吸う。つまりは自己責任なんだよ。でも、伊波にはそれがない。もし煙草の吸い過ぎで体を壊したとしても煙草のせいにするタイプの人間だ。煙草を吸ったのは自分なのに、自分で決めたという自覚がないからすぐ周りのせいにするんだ」

「ぼくの何を知っているんだよ。まだ会って間もないじゃないか。会話だってそれほどしたわけじゃないし」

「いいや、俺は伊波の事がよくわかる。伊波と俺はよく似ているからな。きっとアヘンを吸ったことに関しても、自分で選んだという意識を持っていないはずだ。あれは強制されたのだとさえ考えている。さっき俺がアヘンを吸うように仕向けたと言った時に、伊波はなんで? という顔をした。俺に敵意すら見せた。

 でも思い出してごらん? あの時、伊波は自分から高橋に煙草をくださいって言ったんだぜ? 自分からあのイベントに参加するって決めたんだ。それにあの部屋に入ったなら、煙草を吸う風景ではない事ぐらいは素人でもわかる。伊波だって異様さぐらいは気がついたはずだ。

 でもその異様さを理解した上で近づいたのは伊波だ。そして伊波は何度も何度もアヘンを吸った。途中で辞めようと思わなかったのも伊波だ。もちろん、それは中毒症状があるから、辞めようと思って簡単に辞められるわけじゃないんだけどね。

 それで伊波は発作に見舞われ呼吸困難になり、自宅で倒れた。そして自宅で休養して禁断症状と闘い、見事打ち勝ってここにいるわけだ。だから伊波はこう思う。アヘンは悪いものだ。アヘンがぼくをこんなにボロボロにしたんだ。アヘンなんて世の中から消えてしまえと」

「そうだ。ぼくは今そう思っている。アヘンなんて何にも役に立たない麻薬じゃないか。麻薬は法律でも禁止されている。ダメなものだから禁止されているんだろ?」

「法律の話をしてきたか。じゃあ話を元に戻すとしようか。アヘンからはある重要な成分が取れる。それはモルヒネだ」

「モルヒネって、あのガンの治療手段で使われるやつか?」

「そう。そのモルヒネ。もちろんモルヒネは麻薬として指定されてはいる。でもいいかい。法律ってのは悪を罰する為にあるわけじゃないんだ。俺らを守る為に存在するのが法律。だからな、法律に触れているからってすべてが悪とは限らない。

 このモルヒネだって麻薬及び向精神薬取締法という法律に指定されているだけの話だ。がん疼痛治療に用いられているし、世界保健機関が指定した方法で使用すればモルヒネ本来が持つ身体的、精神的な依存は起きないとされている。もしこれがなかったら進行するがんに侵されている患者の日常は非常に苦しいものになるだろう。伊波はこの話を聞いてどう思う」

「アヘンが悪いものでも使い方によってはモルヒネのように良い使い方にもなるって事かな」

「そうか。やっぱりお前はヒトラーの歴史から何も学んでいないんだな」

「なんでそうなるんだよ」

「さっきも言ったけど、そこに人間の傲慢さが出てくるんだ。良いもの悪いものの判断基準をなぜお前がするんだよ。お前が良いと思ったものがよくて悪いと思ったものが悪いとなってしまうならドイツ人を良しとしてユダヤ人を悪だと決めたヒトラーと何も変わらないじゃないか」

「でも、アヘンに関しては話が違うと思う」

「それは伊波がアヘンで苦い思いをしたからだろう? 伊波はどこか海外に旅行したことあるか?」

「うーん、ぼくはまだ行った事ないな」

「それじゃ、一度海外に行ってみるといい。いかに日本が裕福な国で、その中で暮らしている伊波の価値観が固定概念に過ぎないことがわかる。井の中の蛙大海を知らずの状態なんだ、今の伊波は」

「それとアヘンはどう繋がってくるんだ」

「たとえばモルヒネを生成するにはアヘンからさらにひと手間掛かっている。つまりお金がかかっているわけだ。ではそのお金がない国に住んでいる人はどうなるだろう。ガンっていうのは日本だけの病気じゃない。もしモルヒネを買えない国の人がガンにかかってしまった場合、その国の人はガンとの痛みに耐えながら闘病しないといけないのだろうか。

 そもそも治療するお金すらない国だってある。痛みに耐えながら自分が衰えて死ぬのを待つことしか出来ない国だってあるんだ。俺はある国で母親が子供にアヘンを吸わせている光景を見たことがある。苦しんでいる子供の痛みを少しでも取ってあげたいと思う母親が吸わせるアヘンはそれでも悪なのだろうか」

「それはわからない」ぼくは何が正しいのかわからなくなった。

「つまりな、どんな物事にも、物事そのものには優劣なんてついていないんだ。優劣をつけているのは、それに触れている人間なんだよ。もちろん、今、日本の大学には至る所に覚醒剤や大麻などの麻薬が潜んでいる。

 やることがないからって快楽の為にそういう物事に手を染めるのなんてバカのやることだ。そしてそういうバカをカモにして金儲けを考える奴なんてのはもっと悪だ。

 でもな、悪の根源は覚醒剤や大麻が存在している事じゃない。それを使う人間に判断力がない事なんだ。周りに流されて周りを考えないで自分のことだけ考えて一瞬だけを考えて行動して、失敗したら周りのせいにする。そんな人間ばかりいる社会に未来なんてあるか?」

「どうだろう。未来なんて考えたことがないからわからない」

「伊波はすぐにそうやって逃げるのな。いいか。逃げたってどうせどこかで追いつかれる。地球は丸い。終わりがないんだ。逃げ切ることなんて出来ないんだ。損得で考えてみてもいい。逃げ続ける人生がいいか。逃げるのを辞めて面と向き合って戦ってみる人生がいいのか。どっちの人生の方が最後に笑えると思う? 少し考えてみればわかることだ。俺はサークルアノニムでそういう事に気がついて欲しいと思う」

「そうか。たぶん加藤が言っている事は正しい事だと思う。ただ、どこか納得が出来て、どこか引っかかる。なぜ引っかかるのかって言えばたぶんそれはぼくがまだ知識、いや知恵が足らないからなんだ。ぼくももっと頑張らないといけないな」

 正直にそう答えた。加藤の言葉には納得も出来るが、引っかかるところもある。

「まあ、難しい話は今日はここら辺で辞めにしておこう。サークルの代表がサークルをつまらないものにしてしまってもいけないからね。それにしてもお前はいい友達持ったんだな。千葉君は俺が話している間中ずっとお前の事を見守ってくれていたぞ」

 加藤に言われてぼくは千葉の方を向いた。千葉は心配そうな顔をしながらニコニコして手を振った。

「加藤、今日は貴重な話ありがとう。とりあえず、千葉が待っているから」とぼくは加藤に笑って握手を求めた。

 加藤と力強くしっかりと握手をした後、ぼくは千葉の方に向かって歩き始めた。気が付くと手が汗でびしょびしょでズボンのわきで手を拭こうとした。その時なぜか足をうまく前に出すことが出来ず、体勢を崩した。激しい腹痛に襲われた。

 立っていることが出来なくなった。お腹をえぐり取られるような痛みを超えると次は背中がギシギシ痛み始める。同時に吐き気が襲ってきた。目の前の千葉がぼくに向かって手を伸ばし「伊波!」と呼んだ姿がゆっくりと流れていき、視界が狭くなった。

 ぼくはそこで意識を失った。

【ブログ小説】映画のような人生を:第三十三章「独占」あとがき

ブログ小説-映画のような人生を-独占-あとがき

さてさて、いかがでしたでしょうか。前回に引き続き、今回もそれなりに長い章でしたね。

今回は加藤が熱く語っておりましたが、その内容はさておき、冒頭で話をした独占禁止法について語っておきましょう。

なぜ独占禁止法は存在するのか?それはこの国が資本主義だからです。

資本主義とはどのようなものでしょうか?主義とは言い換えれば、一番大事にする事。資本が一番大事。つまりお金が一番大事なわけですね。

では資本主義のメリットはなんでしょうか?なぜ資本主義の体制を取る国が多いのでしょうか。

それはこんな理由です。資本主義は言ってしまえば、お金が一番大事なわけですから、お金を持ってさえいれば力を持てます。そうなると誰もがお金を手に入れようと競争します。そうすることで技術革新することが何よりもメリットなのです。

しかしもし、競争が起こらなくなったらどうでしょう。技術の発展が停まってしまいますね。それでは資本主義をするメリットがなくなってしまって困ります。

資本主義はお金が一番大事。しかし、その本質は競争する事でより良いものを手に入れようとするところにあるのです。

だからこそ独占禁止法が存在するのです。独占を許してしまったら、その分野での知識や技術は停まってしまいますからね。追いかけられるから、人はさらに前へ進むのです。

でもせっかく汗水たらして努力した結果、素晴らしいものを生み出したとしてもすぐにそれをパクられたら、競争するやる気すらなくなっちゃいますよね。

そこで特許法というものが存在するのです。特許法とか著作権法とか、個人の知的財産権を守るための法律に共通しているのは、年月が決まっている事。

ある程度の期間はそれを独占していいですよ。しかしそれは永遠ではなく、時間が過ぎたらみんなで活用して、更に良いものを作っていきましょうね。っていうのが資本主義の中での特許法や著作権法の意義なのです。

つまり特許法や著作権法ってのは資本主義だからこそ成り立つ法律なのです。

んでね、中国ってそういう所の意識が希薄な気がするじゃないですか。偽物のディズニーとか、偽物ブランドとか。著作権侵害がすごい!ってイメージですよね。

あれはなぜかって言えば、最近じゃめっぽう資本主義の感じが強いですけど、公式には中国って共産主義体制のままなんですよ。

つまり共に産み出す事が一番大事!って国なんですね。だからね、お前のものは俺のもの。俺のものはお前のもの。みんなで一緒により良くなっていこうぜ!って意識の国なのです。

そう考えると著作権もクソもなくなります。生み出された時点でみんなのものなのです。

ただ、歴史的にみて共産主義とか社会主義って、崩壊している所多いじゃないですか。あれはなぜかって言えば、人々のやる気が続かないんですよね。

みんな一緒って意識が強いから、頑張っても評価されにくい。だからやる気がなくなる。そうやって崩壊していったわけですが、それじゃあ困るから、中国は部分的に経済特区を作って、資本主義を取り入れているわけです。

んで、資本主義を取り入れているのに、共産主義的発想でパクりまくっているから叩かれているわけですね。

パクりまくっている上に、資本主義の発想で競争に勝とうとしてくる。こうなったらチートじゃないですか。だから中国の経済が爆発的に発展したわけです。

でもね、一度頑張ったら報われる事を覚えてしまった人から、独占欲を拭い去るのは困難でしょう。

どうやったって、自分が一番儲かるようにしたくなるのが人間です。そして出来れば楽したい。大金を手に入れてもなお頑張り続けられる人はほんの僅か。

そうやって資本主義もある程度までいくと頭打ちになります。結局、資本主義だろうが共産主義だろうが何かしらの弱点は持っているんですね。

では、どういう主義が良いのかを考えてみたんですよ。色々と考えてみた結果、最初は資本主義で後に共産主義のハイブリッド型が良いんじゃね?という結論に至りました。

どうやったらそれを実現できるかはまだ思いついていませんが。結局ネックになるのが人間の独占欲。独占欲さえなければ、すべて上手くいくんじゃないか?なんて事を考えました。

まぁ、独占欲を取り除くのって難しいですよね。僕も独占欲の塊ですし。駄目だって思っているのに、どうしても出てきてしまう、独占欲。

独占欲は人間が手に入れてしまった甘い蜜であり、猛毒なのです。

ということで今回はちょっと難しい話になりましたが、加藤に負けず語ってみましたよ。

ではでは、【ブログ小説】映画のような人生を:第三十三章「独占」でした。

野口明人

ここまで読んでいただき本当に、本当にありがとうございました!

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【ブログ小説】映画のような人生を:次回予告

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注意:

ここから先は次回の内容をほんの少しだけ含みますが、本当に「ほんの少し」です。続きが気になって仕方がないという場合は、ここから先を読まずに次回の更新をお待ち下さいませ。


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 気がつくとすぐ目の前に千葉の横顔があった。

次回へ続く!

【ブログ小説】映画のような人生を:今回のおすすめ

虞美人草
4.3

著者:夏目漱石
出版:Kindle
ページ数:262

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