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物語

『苦手王子は国を出ることにした』-大嫌いを克服するダメな男の話-

苦手なものばかり。勉強も仕事も人付き合いも。そんな自分が大嫌い。一体、自分には何の価値があるのだろうか。勉強も仕事も人間も「本当は」好きなのです。だけど苦手。人と関わりたいのに、上手くいかない。

そう悩んだりする僕は、よく歩きます。歩くとネガティブな発想も少しだけ止まってくれる。だからひたすら歩きます。田んぼの道を。そしてカエルがひとつ鳴きました。

そんな時です。なんか物語書きたいと思ったのは。

このブログに物語なんて書いた事なかったですが、最近記事を全然書いてなかったし、リハビリがてら創作ならいけるんじゃないかと自由気ままに書いてみます。

物語は理想。こうありたいという気持ちを形として表せば、なにか見えてくるのではないだろうか。

良ければお付き合いくださいませ。

これを読んで僕と同じように悩むあなたが少しでも心が軽くなってくれたら嬉しいです。そんな物語が書けますよーに。

では、『苦手王子は国を出ることにした』のハジマリです。

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苦手王子という男の話

苦手王子

トースターで焼いたパンの湯気が目立つ、まだ少しだけ寒さが残る日の事です。

苦手王国に生まれ、すべてにおいて全く上手くいかない苦手王子は、たっぷりのジャムをトーストに塗りながら考え事をしていました。

「僕は本当にこのままでいいのだろうか。このまま僕が王様になったら、ちゃんとこの国を治める事が出来るのだろうか」

将来を考えると不安でたまりません。何も出来ない自分。何をやっても失敗ばかり。一体自分の価値は何なのだろう。僕の存在している意味は。

…消えてしまいたい。

考え始めると悪いことばかり頭に浮かんできてしまいます。しかし、何も考えずにいても無駄に時間が過ぎるだけです。

このままではダメだ。

この国を一度出て、自分の世界を広げよう。何か変化を与えなければ。

決意を固めるようにジャムパンをひとくち大きくかじると、苦手王子は内緒でお城を抜け出しました。

苦手王子は初めに勉強が得意な国を訪れました

勉強が苦手

シナモンロールの花の香りに誘われ、苦手王子はある国へたどり着きました。

この国は頭がいい人だけが住んでいる国です。あちらには生物を研究している若者。こちらには穴をほって歴史の研究をしているおじさん。パンの花の研究をしている人もちらほら。みながみな頭が良さそうに見えます。

「あぁ。嫌だなぁ。なんでみんな勉強が出来るんだろう。僕は落ちこぼれで、いつも教育係に怒られてばかり。みんなは一体何の為に勉強をしているのだろう。一体僕と何が違うのだろう…」

頭が良さそうな人ばかりに囲まれて、自分が情けなくなってきた苦手王子。早くも旅に出た事を後悔し始めました。

ひとりぼっちだ。

ひとりぼっちは不思議なことに沢山の人に囲まれている時に起こります。本当に一人でいる時はひとりぼっちな気持ちにはならないのです。みんなと自分の違い。それを実感した時、苦手王子の心にひとりぼっちが襲って来てしまいました。

苦手王子は旅を辞めようと踵を返しました。その時です。本を読みながら歩いているおじいさんのガクシャにぶつかってしまいました。

「ご、ごめんなさいっ!よそ見をしていて…」

突然の出来事にドギマギしてしまった苦手王子が慌てて謝ると、ガクシャはニッコリ笑って答えました。

「いやいや、ワシの方こそ本の世界に入っておって、前が見えてなかったんじゃ。すまんのう」とてもとても優しい声でした。

「な、なんの本を読んでいるんですか?」優しい声に少しだけ心を許した苦手王子は、ガクシャが読んでいた図鑑のように分厚い本を指差して尋ねました。

「これはな、ワシの人生を綴った日記なんじゃ」

「え!?あなたが書いたんですか?」

「そうじゃ。90年書き続けた日記じゃ。ほれ、こんなに分厚くなっているじゃろ?ここにはワシのすべてが書かれておる」

「90年も毎日忘れずに書き続けることが出来たんですか?僕は日記を書こうとは思うんですが続けることが苦手で、いつも挫折しちゃうんです」

「そーじゃのう。90年間忘れずに毎日…と言いたい所じゃが、実はポツポツと穴が空いておる。一年に一度しか書いていない年だってある。あれじゃな。物事を続けられない人というのは“続けること”と“毎日やること”を一緒だと思っておるのじゃな。日記を続けるコツは毎日書こうというのを辞めることじゃ。」

「“日記”なのに、毎日書かなくてもいいのですか?」

「まずはその思い込みを外してみると良い。思い出した時、書きたいと思った時に書く。それでいいのじゃ。それよりも大切なのは必ず同じ日記に書くこと。心機一転、新しい日記を買って、今度こそは続けるぞ!という人もおるようじゃが、そうすると少ししか書いていない日記が沢山出来ることになる。だから同じ日記に書くんじゃ」

「なるほど。確かに新しい日記ばかり増えていきます」

「毎日書くことが出来なくても、90年も経てばこんなに分厚くなる。完璧を求めると90年間ももたんじゃろう。全力で90年間ダッシュできる人なんておらん。時に休んだりして、マイペースに歩くことが大事なんじゃ」

「そーなんですね。思い出した時に書くのか。僕も自分の人生の物語が書けたらいいな。帰ったら書いてみようかな」

「それならほれ、これをあげよう。帰ってからなどと言わんと今日から始めなさい」そういってガクシャは苦手王子に分厚い日記を差し出しました。

「おお!!ありがとうございます。さっそく今日から書こうと思います」

苦手王子はペコリと頭を下げ、その日記に自分の名前を書き込みました。

続ける事が苦手

「ところでお前さんはどこの国から来たのじゃ?あまり見ない顔じゃのう」

「僕は苦手王国から来ました」

「それはまた遠い所からやって来たもんじゃのう。どうじゃこの国はいい国じゃろう?」

「それが…なんかみんな頭が良さそうに見えて、肩身が狭いです」

「そうかね?」

「僕は勉強が苦手なんです。だからその…」

「うーむ。もし、この世の中が全員頭が良かったらどうじゃろう?そしたら困る人もいるんじゃないかの?」

「そうですか?みんながみんな頭が良かったら、それで幸せなんじゃないでしょうか。教育係も僕を叱らずに済むし。いつも教育係は僕が勉強が出来ないからって険しい顔をしていますよ」

「いいかね?もしお前さんが勉強が出来てしまったら、その教育係の仕事がなくなってしまう。この国の人間の仕事もなくなってしまうじゃろうな。この国の者は他の国へ行って教師の仕事に就いているものが多いのじゃ」

「へー。そうなんですね」

「お前さん、もしかして勉強を教えてもらっている時に謝ってばかりなのではないかな?」

「そうです。一生懸命教えてくれているのに、僕の理解が足りないばっかりにイライラさせてしまって」

「いいかな。その時は『ごめんなさい』ではなく『ありがとう』と言いなさい。『ごめんなさい』と言われてしまうと、自分がやっている事が悪いことなのではないか?という気分になってしまう。『ありがとう』と言われれば良いことをしているという気分になる。どっちが相手は気持ちがいいかな?」

「ありがとうって言われた方が気持ちいいと思います」

「それなら、一生懸命教えてくれているのに、わからなくてごめんなさいではなく、一生懸命教えてくれてありがとうでいいのじゃ」

「うーむ。そういうものですか」

「まー、そういうものじゃ。お前さんのような人がいてくれるから飯を食えている者もおるのじゃ。教える事は良いこと。教わる事も良いこと。誰もがはじめは何も知らないのじゃから。教え教わる事で歴史は続いていく。勉強が苦手でありがとさん。勉強を教えてくれてありがとさん。感謝の気持ちで世界は回っていく。勉強とは過去なんじゃ」

ガクシャは苦手王子の肩をポンと叩き、再び本の世界へ戻っていきました。

「勉強は過去…」

苦手王子は叩かれた肩に手を当てながら、だんだん小さくなっていくガクシャの背中を見つめていました。そして自分はもらってばかりで何も返していないことに気が付きましたが、その頃にはガクシャは見えなくなってしまいました。

今の僕には何もない。そのことに少し落ち込みましたが、ガクシャと話して思った事をもらった日記に書き込み、次の国へ向かいました。

何かを始めたい。もう少しだけ旅を続けてみよう。

“続けること”と“毎日やること”は同じ意味ではない事を知った。

人に何かをしてもらったら、ごめんなさいではなく、ありがとうと言える人間になろう。

勉強は過去と言っていた。過去を見る意味とはなんだろう…

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苦手王子は仕事が得意な国へ行きました

仕事が苦手

肌寒さは薄れ、エピの花の花粉で鼻がムズムズする季節になりました。

この国は仕事を完璧にこなせる人ばかりが集まる国です。苦手王子は鼻をこすりながら周りを見渡し、どこにも看板がないことを不思議に思いました。

「これだけ大きな国なのに、どこにも看板が建ってないな。なんでだろう。僕の国ではどこもかしこも目立つようにネオンが光っているのに」

王子は物珍しそうにどこかさっぱりとした街の路地を歩きました。よそ見をしていたせいでしょうか。曲がり角で食パンをくわえた七三分けのサラリーメンとぶつかってしまいました。

「あいたたた。どこを見て歩いているのかね。あー、時間がもったいない、時間がもったいない」サラリーメンは早口で苦手王子に言いました。

「ごめんなさい。そんなに急いでどこに行くのですか?」

苦手王子は落ちた食パンをすぐに掃除して去っていく別の男の姿を眺めながらサラリーメンに尋ねました。

「どこにって、この国ではみながみな仕事を完璧に出来るから、仕事の取り合いでどこかに仕事がないかと探しているんだよ。どこかにいい仕事はないかね?」

「あのー、不思議に思ったんですが、なんでこの国には看板がひとつもないんですか?看板があれば、それを見て仕事の依頼をしにくる人もいるんじゃないですか?」

「あれ?君はこの国の人ではないのか?」

「僕は苦手王国からやってきました」

「苦手王国!?そうか、そんな遠い所から来たんだね。いいかい?この国の人はみんなどんな事でも全部自分で出来てしまう。だから仕事を誰かに依頼する事がない。誰よりも早く仕事を見つけなければならないから、看板を建てて待っているよりも、歩き回って仕事がどこかに落ちてないかと、こっちから探しにいくんだよ」

「いいなぁ、みんな仕事が出来て。僕は仕事が苦手で出来ない事が沢山あるから、みんなと一緒に働けないんです」

「なんと!君は仕事が出来ない人なのかね!これはいい事を聞いたぞ。私を雇ってくれないかね?」サラリーメンは眼を輝かせました。

「え?…あのー、僕の話を聞いていましたか?僕は仕事が出来ないんです。だからみんなと一緒に働くと、いつもみんなの足を引っ張ってばかりで」

「君は少し思い違いをしているようだね。私が君を雇うのではなく、君が私を雇うのだよ」

「僕が社長ですか?僕は一体何をすればいいのでしょう。僕は何も得意なことがないんです…」苦手王子は自信なさげにうつむきました。

「大丈夫さ。君が出来ない事を私がやる。君は仕事が出来ないのが仕事だ」

働くのが苦手

苦手王子は七三分けのサラリーメンに言われるがまま会社を作りました。しかし、会社の社長などをやった事がない王子は何をやったらいいかわからないので、とりあえず苦手王国で見た会社の真似をしてピカピカに光るネオンの看板を建てるようにサラリーメンに言いつけました。

するとどうでしょう。ネオンが珍しいからか、沢山の仕事が出来る人達が、仕事はないか?と集まってきたのです。

苦手王子は困ってしまいました。お客さんではなく、従業員希望の人が集まって来てしまったのは予想外。苦手王子には人を見極める能力がありません。そこでサラリーメンに人事部の仕事をやるようにお願いしました。

サラリーメンは嬉しそうにその仕事を引き受けました。次から次へと従業員の希望者が来るので、サラリーメンは人事部の仕事を専門にしました。そして苦手王子が出来ないことを見つける度に新しく部門を作り、そこに人を流していきました。

その結果、仕事の得意な国はひとつの会社になりました。王子は従業員に頼んで自分の国へ手紙を送ってもらいました。

内緒で抜け出してきてしまったので、自分は元気でやっていること、そして苦手王国に来る依頼をすべてこちらへ回してもらうことを書きました。

今まで王子はみんなと一緒に働く事が嫌で仕方がありませんでした。どうしても同じことが出来なかったからです。しかし、この国では出来ない事を見つけたらそれを出来る人にやってもらえばいいのです。

ここの国の人は苦手王子社長が仕事が出来ない人だとわかっていましたが、出来ないからこそ自分たちがしっかりしなければと仕事をしました。王子はいつも感謝の気持ちで一杯でした。代わりにやってくれてありがとう。その言葉でこの国の人は笑顔になりました。

王子はこの国で学んだ事を日記に書きました。

出来ない事を見つける事も立派な仕事。出来ない事は出来る人にやってもらえばいい。

すべてのことを出来る必要はない。自分は、人には出来ない事が出来るだけでいい。“出来ない”が出来る。

他の国で当たり前の事でも、別の国では珍しい事がある。当たり前が画期的な発明になるかもしれない。

少し自信になった。

苦手王子は人事部の仕事を終えたサラリーメンに社長の座を譲り、次の国へ向かいました。

苦手王子はおしゃべりが得意な国へ行きました

おしゃべりが苦手

どうやらこの国はみんな噂やおしゃべりが得意なようで、あちこちで楽しそうな話し声が聞こえます。苦手王子は自分から話しかける事が出来ず、自分の近くにいた二人組の声に耳を傾けていました。

「この間、こんな事があったのよ」アカゲの女の子は最近ブームのクロワッサンの花屋での出来事を話しているようです。

「あら、それなら私だって」茶色の髪の女の子は負けじと同じクロワッサンの花屋さんで起きた別の出来事の事を話し始めました。

苦手王子は二人の話を盗み聞きして、我慢できずにフフフと笑ってしまっていました。きっと周りからみたら一人ほくそ笑んでいる奇妙な男のように思われたでしょう。しかし、二人の話がおかしくておかしくて我慢出来ないのです。

「どうして僕はおしゃべりを上手くすることが出来ないのだろう。あんな風におしゃべりで人を笑顔にする事が出来たら素敵なのにな」

そう心の中で考えると苦手王子は一人で落ちこんでしまいました。しかし、そこで苦手王子はおかしな事に気が付きました。

あんな風に?あれ?アカゲも、茶色の髪の女の子も笑っていないぞ。王子は周りを見渡しました。あちこちでおしゃべりをしているグループはありますが、みんな笑顔ではないのです。

楽しそうな声は聞こえてくるのに、顔が笑っていない。なぜだろう。ここの人はみんな笑いに厳しい人達なのかな。こんなに面白い話なのに。

少し不思議には思いましたが、次々と聞こえてくる笑い話に苦手王子は、イヒヒ、イヒヒと笑い声が漏れないようにするのに精一杯でした。

「アハハハ!」

ついに苦手王子は我慢できずに大笑い。その笑い声を聞いたアカゲは茶色い髪の女の子に別れを告げ、こちらにやってきました。しまった。盗み聞きしていたのがバレてしまった。心臓がバクバクし始め、アカゲから逃げ出そうとしましたが足が上手く動きません。

「ご、ごめんなさい!つ、つい面白い話をしていたから盗み聞きしてしまいました」苦手王子は顔を真っ赤にして謝りました。

「なんで謝るのよ?」アカゲは不思議そうに苦手王子の顔を覗き込んできました。

「あの茶色の髪の毛の女の子との会話を邪魔してしまったからです」苦手王子の声はうわずっていました。

「邪魔なんてしてないわよ。あの子とはいつでも話せるし、いつも内容がないような話だからいいのよ別に」

「内容がないよう…。イヒヒ。でも、内容がないって、あんなに面白い話をしていたじゃないですか」

「あー、クロワッサンの花屋の話ね。あんなダメ店長のお店がなんでブームになったかと言うとね…」

話をするのが苦手

それからアカゲは最近ブームのクロワッサンの花屋での出来事を話し始めました。彼女はやはりおしゃべりが好きなようで、次から次へと言葉がスラスラと出てきます。苦手王子はその言葉を聞き、自分も何か話さなきゃ、話さなきゃと思いましたが上手く話せる自信がありませんでした。

苦手王子が心の中で葛藤をしている間にクロワッサンの花屋でのエピソードはすべて話し終えていました。さらにその話はただの前置きだったようで、そのクロワッサンの花屋の主人が密かに毎朝やっている習慣、クロワッサンに向かって独りで褒め称えている場所を目撃してしまった事についてアカゲは話し始めました。

「そこの主人たら、花に向かって拍手してるのよ」

苦手王子はそのマシンガンのようなおしゃべりに、聞き惚れてしまい自分の話をすることは諦めました。ずっとずっと聞いていたかったのです。なんと面白いことでしょう。アハハハと笑いがとまりません。

苦手王子の笑い声に気分を良くしたアカゲは次第に身振り手振りをつけて話すようになりました。それはまさに演劇を見ているようでした。苦手王子はアカゲの話に息を呑み、時に驚き、時に一緒に怒った顔になり、ここぞという場面で大笑いしました。気がつけば笑いすぎて顔が痛くなっていました。こんなに笑ったのは久しぶりです。

会話が苦手

「あー!よくしゃべった!」アカゲはすべてを話し終えると満面の笑みで笑いました。それは苦手王子が見たアカゲの女の子の初めての本当の笑顔でした。

「そんなにおしゃべりが上手で羨ましいです」苦手王子は心で思ったことを素直に言葉にしました。

「そうかしら?私の話なんて誰も聞いていないわ」

「そんな事ないですよ。すごく面白くて、僕も、その、何か話さなきゃいけないのに、ついつい話すことを忘れてしまいました」

「この国の人はね、おしゃべりが大好きなの。みんな自分の話がしたくてたまらないのよ」

「ごめんなさい、僕はおしゃべりが苦手で…」

「だからなんで謝るのよ。いいかしら。人には口がひとつで耳がふたつあるわよね」

「そうですね」

「でもね、この国には圧倒的に耳が足りないの。耳のほうがふたつあって多いはずなのに」

「それはどういうことなんでしょうか」

「だからね、みんなあなたのように“聞く”って事が出来ないの。人が話をしている時にどうしても口を挟んで、話を奪ってしまうの。だからさっきの茶色の髪の女の子にもクロワッサンの花屋の話を最後までしたことがないのよ」

「そうだったんですか。こんなに面白い話なのにもったいないですね」

「でしょ?こんなに面白い話なのにね。もったいないね」

苦手王子はなんだか、自分がおしゃべりが苦手だった事が得に思えてきました。

「おしゃべりが苦手で良かったです」

「そうね。私もあなたに話を聞いてもらえてすごく幸せな気分だわ。ありがとね!」アカゲはもう一度満面の笑みでニッコリと笑いました。

王子はそのアカゲと別れ、今感じたことを日記に書きました。

おしゃべりが苦手でも人を笑顔にすることが出来るのだな。

これが人が出来ない事を自分がやるという事なのかもしれない。出来ないという事はもう一方のことが出来るという事。

お話が苦手ということは、聞くことが得意。

クロワッサンの花屋の行動が面白かった。

苦手王子は日記の終わりに、はなまるを付け、次の国へ向かいます。

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苦手王子は音楽が得意な国へやってきました

音楽が苦手

ひたすら歩き、足のマメも潰れてしまった頃のこと。暑さにもやられ、汗だくで挫けそうになっていた苦手王子の耳に、とても心地の良い音楽が流れてきました。

その音に惹かれるようにして歩いていくと、一つの国を発見しました。

もう少しだけ頑張ってみようと足の痛みに耐え、入国した苦手王子でしたが、その心地の良かった音楽は徐々に、大爆音になり、耳を塞ぎたくなってしまいました。

この国は音楽が得意な人が集まる国。あちこちで様々な楽器を得意とする人が、私が演奏する楽器が一番だと張り合って演奏しています。

王子はまずチェロを演奏する人の前で立ち止まりました。それはそれは大きな体でダイナミックに演奏をしていますが、指の動きは繊細です。

「弦楽器こそが至高の楽器。私の演奏を聴いていってください」そう言うと華麗に一曲披露してくれました。

「なんとも素晴らしいメロディーですね」

「そうでしょう。どうです?ご一緒に」横においてあった様々な弦楽器を苦手王子に見せ、演奏を促しました。

苦手王子は小さい頃から苦手王国の音楽家にヴァイオリンを教えてもらっていましたが、上手く弾けずに諦めたのでした。

「僕は右手と左手を別に動かすことが苦手で、メロディーが上手く弾けないのです。ほらこの通り」苦手王子も一曲弾いてみましたが、その音は不安定で、どう考えても上手とは言えない音色です。

「音楽とは音を楽しむもの。上手く弾けなくてもいいのですよ。まずは楽しみ、自信を持って演奏しなさい。それがメロディーになるのです!」そう言ってくれましたが、苦手王子は何時間練習しても上手になれず楽しいとは思えないのでした。

あぁ。僕も音を楽しめたらいいのだけれど。なんでこんなに下手くそなんだろう。段々自分が情けなくなってきた苦手王子はヴァイオリンを返し、別の楽器の音のする方へ歩いていきました。

楽器が苦手

激しいの太鼓の音に足を止めた苦手王子。大人数でリズム隊を形成しています。

「打楽器こそが至高の楽器。私達の演奏を聴いていってください」そう言うと、リズミカルで元気なバスドラムやパーカッションなど様々な打楽器を叩いてくれました。

「踊りだしたくなるリズムですね」

「そうでしょう。どうです?ご一緒に」苦手王子に様々な打楽器を見せ、演奏を促しました。苦手王子はその中から一番簡単そうな一本のバチで演奏出来るものを選びました。

「僕はリズム感がないんです。ほらこの通り」苦手王子はデタラメにしか聞こえないリズムでバチを振り回しました。

「大丈夫です。心に流れる鼓動を感じなさい。音楽とひとつになるのです。それがあなたのリズムです!」

そう言って、何時間も苦手王子の練習に付き合ってくれましたが、結局苦手王子のリズム音痴は治りませんでした。みんなと一緒に演奏すると、どうしても苦手王子の下手さが目立ってしまうのです。

ほらやっぱり僕には出来ないや。心に流れる鼓動を感じられたらいいのだけれど、どうして下手くそなのだろう。熱心に教えてくれる事が段々申し訳なくなり、ありがとうございましたとバチを返し、苦手王子は別の楽器の音のする方へ歩いていきました。

ピアノが苦手

肩を落として歩いていた苦手王子。王子の歩みに合わせてピアノの音が聴こえて来ました。最初は偶然かと思いましたが、王子が歩くのを辞めるとピアノの音もピタリと止まります。再び歩き出すとまたもや流れてくるピアノの音。

苦手王子は周りを見渡しました。しかしどこにもピアノが見当たりません。

「ここです。ここ!!」どうやら声は苦手王子の足元から聞こえてくるようです。これは驚きました。とても小さなピアノをとてもとても小さなピアニスタが弾いているのです。

「音楽は人に勇気を与えるものです。見てください私の手を」ピアニスタは苦手王子に向かって星を見せるように手のひらをバッと広げてみせました。

「とても小さな手ですね」

「そうなんです。私の手はとても小さい。だからピアノには向いていないのかもしれません。それでもあなたを笑顔にすることは出来ます」その小さな手で楽しいメロディーをリズミカルに奏でました。

「メロディーもリズムも素晴らしいですね。でも僕にはそのどちらも備わっていないのです。だから一緒にピアノを弾くことは勧めないでください」

苦手王子は自分の手をまじまじと見つめました。楽器を上手く弾けない手。きっとピアノだって上手く弾けない。僕の手には何の楽器もなじまない。

「私はいろいろな国を放浪していましてね、最近この国にやってきたのです。この国の人々はみんな自分の楽器が一番だと言い張ります。私もピアノが一番だと思ってはいますが、この小さな体でしょう?だからみんな私に気が付かないんですよ。なので一番は諦めました。私に気がついてくれた人だけのために演奏する事に決めたのです!別にあなたにピアノをやれなんて言いませんよ。この小さなピアノは私にしか弾けませんでしょう?」

苦手王子はピアノを弾けと言ってこない事に少し安心し、そのピアノの音を聴くことに集中しました。

苦手王子にしか届かないピアノ。しかしそれはそれは心地よく体に染み込んできます。苦手王子は音を楽しみ、音楽とひとつになっていました。

気がつくと王子は何も持たないその両手で、ピアニスタに拍手を送っていました。

その拍手はメロディーもなくリズムありませんでしたが、大きな音でした。その大きな音はこの国のどの楽器よりも大きく響きました。

その音に驚いた音楽家たちは苦手王子の方を見ました。はて?あの男は一体どうして拍手なんてしているんだろう。何もない場所でパンパンと手を叩いている。

次第に苦手王子に群がってくる音楽家たち。そしてとてもとても小さなピアニスタがいることに気がつくのです。

そこでピアニスタはチェロで演奏していたメロディーを弾き始めました。自然とチェロとのセッションが始まりました。さらにピアニスタはリズム良くピアノの鍵盤を叩きました。それにつられてバスドラムやパーカッションも参加し始めました。次第に参加する楽器が増え、街中の音楽家が一つの場所で演奏をするようになりました。

ピアニスタは全く聞こえなくなってしまった自分のピアノの演奏をやめ、彼らの中心で小さな体で大きな指揮をはじめました。みながみな、小さな小さなピアニスタをよく見ようと集中していたせいか、自分が一番だという事を忘れ、調和の取れた音を奏でるようになりました。

あぁ。これは僕がこの国に入ろうと思った時に聞こえた、あの心地よい音楽だ。苦手王子は心のままに大きな拍手を送りました。

そうか。苦手王子は気がついた事を日記に書きました。

楽器を持たないからこそ拍手が出来る。これは僕の自慢の楽器だ。

何も持てないから持っている。楽器が下手くそだからこそ、上手な人がすごいと思える。だから素直に拍手が送れる。この国も聞く耳が足らなかったのかもしれないな。

疲れた体に音楽は染み込んでいく。

苦手王子は日が暮れるまで、彼らの素晴らしい演奏に耳を傾け、不器用ながらも体を揺らし音を楽しみました。そして彼の自慢の楽器で精一杯の拍手をみなに送りました。

体の疲れがすっかりなくなった頃、王子は旅を続ける元気を取り戻しました。ピアニスタは「私はもう少しこの国で演奏してから放浪の旅を続けます」と言い、苦手王子に選別として花の種をくれました。

苦手王子はその小さな種をなくさないようにポケットにいれ歩き始めました。一つになった音楽の国の彼らは、次の国へ向かう苦手王子のその背中に、大きな大きなオーケストラを送りました。

苦手王子は正義の国へやってきました

グループが苦手

長い長いトンネルを抜けました。暗闇に慣れた瞳に射し込む眩しい光。苦手王子の目の前には一面に広がり太陽に向かって元気良く咲くメロンパンの花がありました。風に運ばれた甘い香りは苦手王子に懐かしい記憶を思い出させます。

何事も上手くいかずに落ちこんで、ズボンに手を入れながら下をむいて歩く帰り道。そんな時に「顔を上げなよ」と言ってくれているようなメロンパンの花たちの香り。太陽の光をいっぱいに浴びたメロンパンの花をもぎって、ひとつ口に運ぶだけで元気になれたのでした。

正義の国

苦手王子は一番近くにあったメロンパンの花をもぎって口に入れました。それは昔に食べた味よりもずいぶんと優しい甘さで、ひとつ、またひとつと手が伸びてしまうほどでした。

「なにをしておる!」

突然後ろから怒鳴り声が聞こえ、苦手王子は驚きのあまり尻もちをついてしまいました。慌てて立ち上がろうとしましたが、あれよあれよと体を縄で縛られ苦手王子は捕まってしまいました。

わけもわからずどこかに連れて行かれる苦手王子。目隠しをされてしまったので、自分を捕まえた人がどんな格好をしているのかすらわかりません。

不安に胸が一杯になり、手汗が止まりません。声を出そうとしましたが、メロンパンの花でパサパサになっていた喉からは大きな声が出せませんでした。

どれだけ歩いたことでしょう。苦手王子が目隠しを外された場所は小さな王宮の大広間でした。

苦手のアーサー

ここは正義の国。すべての人が正しく、すべての人が義を持って行動します。苦手王子の目の前にいるのはそんな国の王様、アーサー。

「お主は何をしていたのだ?」アーサーは優しい顔でそう言いました。

「あ、あ、あの…」苦手王子は言葉に詰まってしまいました。

「そう慌てなくてもよい。ゆっくりでいいから何をしていたのかを説明して欲しいのだ」

「ぼ、僕は苦手王国から旅をしてやってきました。それでトンネルを抜けた所にメロンパンの花が咲いていまして…」

「とてもキレイであったろう。あれは我が国の宝なのじゃ」

「はい。とてもキレイでとても懐かしい気分になりました。それで、その、昔の事を思い出しまして、花をもぎって食べてしまって…」

「お主の国ではあれを食べるのか?」

「あ、はい。僕の国ではメロンパンの花をもぎってかじるのが子供の特権というか、その、習慣になっていまして」

「そうか。それはすまない事をした。ワシは宝を狙う盗賊の類だと思ったのだ。謝ろう。申し訳ない」

謝るのが苦手

アーサーは立ち上がり、王様には似つかわしくないほど深々と頭を下げました。それに驚いた苦手王子は「いえいえ!こちらこそごめんなさい!」と謝りました。苦手王子は人に謝るのが苦手でしたが、そのごめんなさいは自然と口から出たのでした。

「我が種族は、特殊な体質で太陽があがっている時にしか活動出来ないのだ。その昔、他の土地で暮らしていたのだが、大地の変動で極夜の土地になってしまってのう。太陽が一日中当たらず、我が種族はほとんど滅んでしまった。残った皆が命をかけてワシをなんとかそこから脱出させてくれてな。住める土地を探して彷徨ったのじゃが、もうダメだと思った時に、あのキレイなメロンパンの花が咲いているのを発見してな。ワシが探していた場所はここなのだと」

「そんな大変な事が…。なるほど。確かにメロンパンの花は太陽に向かって咲きますから、当分の間は極夜は訪れないでしょう」

「私はなんとかここに国を再建させたいと思う。そこであのメロンパンの花を少しずつ他の国に出荷するようになってな、昼間しか動けないから、あまり交渉が上手くいかないこともあるが、最近徐々に高値で買い取ってくれる国も出てきたのじゃ。この王宮もその売上で建てたのじゃが…」

「すべて一人でやっているのですか!?」

「もちろん。王様とは国を治める者であり、国を創る者、そして国そのものじゃ。ワシがいる場所が国になる。今はひとりじゃが、やがて幸せな国民で溢れかえるような場所を創りたい。そのために最初はすべて自分でやらねばならぬ」

「国を創る者…。なるほど」苦手王子は自分が王様になった姿を想像してみました。

「しかし最近、その大切な財源であるメロンパンの花が夜中にごっそりとなくなる事件が発生して困っておる」

「えー!そうなんですか!?」

「だが、ワシは夜には活動出来ぬ。だから原因もわからぬのじゃ。盗賊の類が盗んでいるのでは?と警備をしていたところにお主がいたものじゃから、こうして拘束して事情を聴きたかったのじゃが、一人ゆえ、ちょっと手荒な真似をしてすまなかった。やっと訪れたチャンスに逃げられたら困ってしまうからのう」

「すみません」

「いやいや。お主が何者かわかったのだし、国の違いによる習慣なのであろう。それは仕方のないことだから気にしなくてよい。それよりもお主はメロンパンの花の消失をどう考えるか?あのメロンパンの花は高く売れようになった。その事に目をつけた輩が盗んでいると思うのじゃが。ワシの努力を奪うようなヤツは許せんじゃろう?」

「えーっと…」

苦手王子は言葉に詰まってしまいました。そうですねと言えばいいだけの事なのですが。人に意見を言うのが苦手でしたし、人の話に賛同することも苦手でした。だから度々会話している人々の空気を壊してしまっているのです。

そんな様子を察してアーサーは言葉を続けました。

「いやはや、お主は常に困った顔をするのう。しかしまあ、お主と知り合えたのもなにかの縁。ひとつワシを助けてはくれまいか。先程も説明したようにワシは夜に活動することが出来ぬ。そこで一晩あのメロンパンの花を見張って原因を突き止めてほしいのだ」

「あ、それでしたら大丈夫です。あのメロンパンの花の下で一晩過ごしてみたいなって考えていた所でしたので」

「おお!そうか。ありがたい。それではその好意に甘えることとしよう。人と話をするのも久しぶりじゃ、時間になるまで募る話もあろうぞ」

アーサーは苦手王子と時間になるまで語り合いました。たった一人の王様は寂しかったのでしょう。王様はメロンパンの花の素晴らしさや、昔住んでいた土地や、国民の素晴らしさ、この国に来てから国の再建を願って小さな王宮を一人でデザインして作った事など沢山教えてくれました。

苦手王子は孤独が苦手…

ひとりぼっちが苦手

一人の辛さはわかっていましたので、アーサーの気持ちを想像するとなんとも言えない気持ちになりました。

「あぁ。一人ぼっちの王様。あの時少しでも賛同する事が出来たらなんと心強かっただろう。どうして僕はそういう事に気が付けないんだ。アーサーと親友になりたいなぁ。でもアーサーは迷惑だろうなぁ」

夕方になり、メロンパンの花の前で待機することになりましたが、苦手王子はそんな事を考え、落ち込んでしまいました。

そんな苦手王子を優しく見守るメロンパンの花。苦手王子は無意識にメロンパンの花をひとつもぎり口に運びました。

「なにをしておる!」

突然後ろから怒鳴り声が聞こえ、苦手王子は振り向きました。そして尻もちをついてしまいました。今度は声に驚いたのではありません。あまりにも多くの騎士の数に驚いてしまったのです。

「あ、あの僕は決して怪しいものではありません。苦手王国からやってきたもので!!」苦手王子は声を震わせながら身分を明かしました。

「苦手王国だと!?そんな遠くの国からやってきたのか!」その中のひとり、ナイトが言いました。その手はすでに苦手王子を捕らえる寸前でした。

「は、はい。それでこの国に来たのですがメロンパンの花は僕の国では食べる文化がありまして…」

苦手王子はアーサーがメロンパンの花を食べることを知らなかった事を思い出し、自分の国の習慣の説明をしようと思いました。

「メロンパンの花?何を言っておる。それはサンライズの花じゃ!それにサンライズの花は大切な食料であろう!」

メロンパンとサンライズ

そうでした。苦手王子はメロンパンの花は西の国ではサンライズの花と呼ばれている事を思い出しました。

「そ、そうです。そのサンライズの花を食べると元気が出てですね…」

「そうであろう。サンライズの花は我々の国の宝。元気の源。我々は太陽の下では生活出来ないだが、太陽の恵みを受けたものを食べなければ生きていけない。だから代々この土地で暮らしているのだ」

「そうだったんですか」

「しかしこの通り、夜に活動するのもあって、あまりにも人の数が増えすぎた。供給のバランスが崩れてしまい、サンライズの花の数が減ってしまって困っているのだ。しかもなぜか最近はサンライズの花が誰かに刈り取られている」

「そ、それは…」苦手王子はアーサーの事情を説明しようとしましたがナイトの話を遮る事が出来ませんでした。

「もちろん、過去に供給バランスが崩れた事は何度もあった。食料が減り、人が増える。そんな時は戦うことで人を減らし、残ったものが食料を手に入れる。それが我々の部族の決まりなのだ」

「え!?仲間同士で争うなんて悲しいじゃないですか」

「それがお主の正義か。我々は騎士だからな。みなが守るものがあって戦っているのだ。みなが正義を持っているのだ。しかし正義は必ずしも正解ではない。全員に食料を渡してしまうと全員が足らなくなり全滅してしまう。だからその想いが強いものを勝者にし生き残らせる。負けたものの命の責任を背負って生きていくのだ。そうやって繁栄し続けてきた部族なのだ。しかし、そのルールを破るやつが出てきた。我々部族の誇りを傷つけた許せぬやつだ。そうだろう?」

苦手王子は困ってしまいました。アーサーの話もナイトの話もどちらも正義。どちらも正しい。どちらの肩を持つことも出来ません。苦手王子はグループに属することが苦手なのです。

「あ、あのー。実はですね…」

苦手王子はアーサーの話をしました。極力どちらの肩も持たないように気をつけながら。アーサーと長く語り合った事もあり、アーサーに同情する気持ちはありましたが、その気持ちに流されて、ナイトの言うことを否定してはいけないと思ったのです。

「なんと。辺鄙な場所に小さな王宮が出来ていて不思議だとは思ったが、そんな者がいたのか。我々は夜にしか活動出来ぬゆえ知らなかった」

「アーサーは自分の国を創りたいと言っていました。幸せな国民で溢れかえるような場所を創りたいと」

苦手王子はアーサーから沢山教えてもらった話をすべて残らずナイトに語りました。

「我々にはリーダーという者がいなかった。みなが正しいゆえに平等。平等がゆえに上に立つ者がいなかったのだ。だから繰り返すことしかできなかった。繰り返し繰り返し、ただ時間を過ごすだけの種族。何か変化を起こそうにもそれを引っ張れるものがいなかった」

「歴史を繰り返す事。繰り返しと毎日。…勉強は過去」苦手王子はなにか思い付いた気がしましたがすぐにそれは消えてしまいました。

「すまぬ、お主にお願いがあるのだが、もしその者が許せば我々のリーダーになってはもらえないか聞いてもらえるだろうか。我々は戦う事しか知らぬ。新しい風が吹かなければそれはやがて衰退していく。この国も外に目を向けねばならないのかもしれん」

苦手王子はお願いされる事が苦手でしたが、これはきっとアーサーも喜んでくれるだろうと思い、その依頼を引き受けようとしました。

「…だがのう。リーダーが出来ても、食料難は解決しておらぬ。まとめ役のおかげで争いがなくなっても、我々の人数が減るわけではないのだ」

苦手王子はそこで、うーんと考えました。太陽の花、サンライズ。メロンパンの花。このまま食べ続ければいつかはなくなってしまう。そしてその事はこの国が財政難になることも意味する。

金を売って生活する王様と金を食べて生活する種族。それは両立出来るのでしょうか。どうすればいいのだろう。考えても考えても何も思いつきません。

苦手王子は昔、そうしていたようにズボンに手を入れながら下を向いて落ち込みました。やはり僕は何の役にも立てない。

その時、手に何かが触れました。そこにあったのは花の種。

「それは月の花の種ではないか!」ナイトは苦手王子の持つ花の種を指さして言いました。

「え…。これはあの、おそらくクロワッサンの種でして」苦手王子は意味がわからずタジタジとしました。

「お主、クロワッサンとは三日月の事。我々の種族がその昔、主食にしていた月の花なのだ!まさかまだ現存しているものがあるとは…」

話を聞く所によると、その昔、サンライズの花が一面に咲いているこの土地にはクロワッサンの花が広がっていたようです。

しかし騎士の数が増え過ぎたことと、大地の変動により極夜だったこの土地が普通の土地になってしまった事により、太陽を反射させた月の光によって繁殖するクロワッサンの生産が追いつかなくなり、クロワッサンの花は絶滅してしまったとのことでした。

太陽と月と…

苦手王子と太陽と月と星

太陽の花と月の花。その二つがあるのなら。

苦手王子はそのクロワッサンの種をナイトに差し上げることにしました。それからアーサーに事情を説明し、アーサーはナイトたちと手を組み、正義の国を治める事になりました。

アーサーは夕方ナイトたちに会いに行き、寝起きのナイトたちに指示を出します。ナイトたちはその指示の通りに動き、太陽の花と月の花を大事に大事に育てました。

…が、しかし。クロワッサンの花は咲きませんでした。月の花が出来なければ、食料難も解決しない。そうなるとメロンパンの花を食べなければならなくなります。すると国の財政も傾き、アーサーの夢も…。

苦手王子はまただと思いました。またしても上手くいかない。自分が関わるとどうしても上手く行かなくなってしまう。どうして僕は苦手の国に生まれてしまったのだ。どうして僕はすべてにおいて上手く出来ないんだ。どうして!!

「苦手の国の王子様だぞ。誰よりも下手くそにきまっているじゃないか!僕は、ただの苦手の国の国民なんじゃない!王子なんだ!生まれながらにして何も出来ない事が約束されてるんだー!畜生!!」

苦手王子はクロワッサンの花の種を植えた土の上で地団駄踏みました。

「なんで。なんで生えてこないんだよ。こんなにも苦手王国から離れた場所まで歩いてきたんだぞ!少しは僕が苦手王子だって事を忘れさせてくれてもいいじゃないか!!」

苦手王子は悔しくて悔しくてたまりませんでした。あまりにも悔しすぎて地面に拳を叩きつけていました。

そんな時、後ろから小さな小さなメロディーが聴こえてきました。ピアニスタがそこにいたのです。

「観て下さい、私の手を!」ピアニスタは、左手で鍵盤を叩きながら右手を空高くかざしました。その手は星の形をしていました。「あなたは今まで手を伸ばしたことがありましたか!?欲しい欲しいと手を高く伸ばした事が!」

「ぼ、ぼくはどうせ、苦手王子なんだ!」

「だからなんです!?物事が苦手でも物事を願っちゃいけないって誰が決めたんです!?」

「ぼ、ぼくは!自分が嫌いで、大っ嫌いで!自分を変えたくて」

「だったらその手を広げなさい!欲しいと願ったその手が星になり、星と星がぶつかれば、人の願いをかなえる流れ星になります!」

苦手王子は握った拳の力を緩め、大きく手を広げ、ピアニスタのメロディーに合わせて大きな拍手をしました。

するとどうでしょう。その音にビックリしたかのようにクロワッサンの種から芽が出てきました。

「僕は変わりたい。変わりたい。変わりたい!!」

拍手の音に励まされ、クロワッサンの芽はぐんぐんと伸びていきます。そして花が咲きました。

「ほら。どうせどうせの苦手王子でも、変えようとすれば、変えようとさえすれば、どんな事でも変えられるんです!」ピアニスタは指揮者のように振る舞って、苦手王子の拍手を止めました。

そしてピアニスタは開いたクロワッサンの花を手に取り、苦手王子の胸ポケットに挿してあげました。そして小さくお辞儀。

「…あ!君はもしかして、おしゃべりの国にも寄ったのかい?」苦手王子はアカゲの話を思い出しました。

「音楽は人に勇気を与えるもの。勇気のない人がいるところに私あり!ですよ」ピアニスタはにっこりを笑いました。

正義の国は星の丘に名前を改めました

幸せの丘

苦手王子はクロワッサンの花が咲いた事をアーサーとナイトに知らせました。アーサー達はその事をすごく喜び、太陽の花と月の花が一緒に咲いた場所を「星の丘」と呼ぶことにしました。

星の丘にはメロンパンの花とクロワッサンの花が向き合うように咲いています。その花は大きなドームを作り、太陽と月の光を同時に注ぎました。ここは朝でもなければ夜でもありません。ここの場所でなら、アーサーとナイト達は会話が出来るのです。

アーサーはその事をすごく喜びました。もうひとりぼっちではなくなったのです。ナイト達はアーサーというリーダーを得て、この土地をもっともっと良いものにしたいと考えました。長年自分たちを育んできてくれた土地。その土地を自慢したくなってきたのです。

ナイト達は苦手王子に相談しに来ました。ナイトたちからしてみれば、苦手王子は月の花を咲かせた奇跡の人です。今度もなんとかしてくれるのではないかと顔をキラキラさせていました。

苦手王子はうーんとうなりました。月の花を咲かせたと言っても、あれはたまたまなのです。自分が本当に変わったのか?と言われれば、元のままの苦手王国の王子。何をするにも苦手です。

そこで苦手王子はサラリーメンの事を思い出しました。

「そろそろだと思っていました」

突如現れたサラリーメンにビックリする苦手王子。

「どうしてここに?」

「元社長、私を誰だと思っているんです?仕事の話とあらば誰よりも先に駆けつけますよ」

苦手王子はサラリーメンとの再会に喜び、嬉しさのあまりハグをしようと思いましたが、サラリーメンはさらりと避けてしましました。「あぁ。慣れない事をするもんじゃなかった…」

「最近、ここいらでメロンパンの花が徐々に価格が高騰しているのを発見しましてね、もっともっと流通するかと思ったらそうでもない。はて?もしかして、人手不足なのでは?とお伺いしたわけです」

「確かに星の丘でアーサーとナイトが話せるようにはなったんだけど、その他の場所へはやっぱり太陽の問題があってね、メロンパンの花を出荷させようにもその手がないんだ」

「でしたら私に任せてください。それにふさわしい手を考えておりますので」そう言うとサラリーメンはどこかへ連絡を入れました。

数日後、星の丘へやってきたのはアカゲでした。彼女はメロンパンの花とクロワッサンの花が向かい合ってドームになっている部分を見ると感動しているようでした。

「これなら、みんな絶対に食いつく話題だわね!任せなさい!」サラサラとメモを取り、アカゲはササッとどこかへ行ってしまいました。

苦手王子は久しぶりに会うアカゲに再会の挨拶をしようと思いましたが、事態はそれどころではなくなっていました。なんとアカゲが星の丘の噂話をいたるところに広め、星の丘が沢山の人で賑わったのです。

観光客相手に商売をするサラリーメン。星の丘はどんどん大きな都市になっていきました。

そして苦手王子はこの国で学んだことを日記に記し、ひっそりと次の国へ行く決意をしました。季節はすっかり秋になっていました。

人の話を聞く時は、一方の話だけでは判断出来ない。

ある人の正義は別の人の正義じゃないかもしれない。

オモテとウラ、アサとヨル。その二つが合わさって初めてひとつになるんだ。その間にあるのはヒル。

人と深く関わるとなんだか胸が苦しくなる。

苦手王子は別れの国にやってきました

そこは寂しく何もない国。すべての人が別れを行う為に訪れ、去っていきます。

苦手王子は別れが苦手でした。何をやっても上手く出来ない。その事は沢山の教育係を雇い入れては解雇せざるを得ない状況を生み出していました。

新しい教育係が来て、仲良くなる頃には去っていく。次第に苦手王子は人と関わる事が苦手になっていきました。どうせ仲良くなっても別れが必ず来てしまう。それならば。

そうやって苦手王子は徐々に人と仲良くなることを避けるようになったのです。

苦手王子は歩きながら、様々な人と出会った事を思い出していました。

ガクシャ、サラリーメン、アカゲ、ピアニスタ、アーサー、ナイト。

あの人達とも結局、深く関わり過ぎる事はなかったな。仲良くなればなるほど別れは辛くなる。別れが来ないことなんてないのだから。

特に悲しかったのは自分の中の悪を見つけてしまった事です。

苦手王子はアーサーと出会った時、自分と同じものを感じました。ひとりぼっちの寂しさです。だからこそアーサーと仲良くなりたいと思いました。しかし、そのアーサーもナイトたちと出会い、ひとりぼっちではなくなりました。アーサーがひとりぼっちじゃなくなった事は良いこと。なのに苦手王子は何かを自分の中から奪われてしまった気がしていました。

アーサーが自分から離れていってしまったと恨み、ナイトを、星の丘を生み出してしまった事を、少し妬んでいる自分がいたのです。

だから別れを告げず、ひっそりとあの場所を去りました。自分はこの国にいてはいけない。

結局、友達になろうとも言えず、親友にもなれなかったな。

苦手王子は自分の小ささが嫌になりました。そんな時ふと、横を見ると立て看板がありました。

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ」

平家物語の冒頭部分です。

栄枯盛衰。栄えたものは必ず衰えていく。永遠というものはない。どれだけの人が永遠を願ったでしょうか。どれだけの王様が不死を求めたでしょうか。もしかしたら星の丘の繁栄もすぐに終わってしまうかもしれません。

もちろん苦手王子の事もそう。やがて王様になる時が来るでしょう。しかし、それは必ず衰えて消えてしまう。それならば苦手王子は王様になる意味があるのでしょうか。

苦手王子は、この旅をしている意味を考えてしまいました。

「僕はこのままじゃいけないと思って旅に出たけれど、王様になってもどうせ終わりが来るのだったら、どんな僕でも結局は意味なんてないんじゃないかな。この旅は意味なんて本当にあったのだろうか」

別れが苦手

苦手王子は空を見上げました。太陽が沈み込む少し前。オレンジとブルーが混ざりあう幻想的な時間。苦手王子は夕暮れが苦手でした。朝でもなく昼でもなく夜でもなく、夕方が苦手。冬よりも秋の方が苦手。

そこには終わっていく過程があるからです。

悲しい気持ちになりました。苦手王子は空を眺めているその両の眼のちょうど真ん中あたりがツーンとするのを感じました。しかし涙は流れません。泣くことが苦手なのです。

「涙を流せたらどれだけ楽になるだろう。今まで沢山の別れがあったけれど、どれだけ悲しくても涙が流れてくれない。仲良くなった教育係が涙はカタルシスなんですよって言っていたけれど、確かに泣くことよりも泣けないことの方がずっと悲しいや」

空に浮かぶ雲はどんよりと膨れ上がり、山のように見えました。

その山と山のあいだに河が流れ、大きな海になっていく。空に浮かぶ大きな海。

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」

苦手王子は鴨長明の方丈記を諳んじました。暗記が苦手でしたが、なぜかその部分だけは頭から離れません。

なんで河は流れるんだろう。河は絶えず流れ続け、やがて海にたどり着く。そして蒸発して雲になり、再び雨として河に戻っていく。繰り返し繰り返し。そこに意味はあるのだろうか。

物事は必ず終わりが来るのに、物事は必ず続きます。この夕暮れがやがて夜になり、暗闇を連れてくる。しかしその暗闇は再び光を取り戻し朝になります。一体、何のために。

「お前さん、勉強が苦手と言っていたのに難しい事が言えるんじゃな」そこにはガクシャがいました。

「おじいさん!なんでこんな場所に」苦手王子は腰が抜けそうになりました。

「いやー、ワシももう歳じゃ。いろいろと別れを告げるものが出てくるのじゃよ。長生きなんてするもんじゃないわい。この歳になるとどうしても周りが亡くなっていく姿を見なければならん。人の死というものは何度経験しても慣れんもんじゃな」

「それは…。あ、あの、それならなぜ人と関わるんです?人と関わらなければ、人の死も見なくて済むじゃないですか!そうでしょう?」苦手王子はつい語気を荒げてしまいました。

「確かにそうじゃのう。何でじゃろうな。長く生きてみたが、なぜ自分は人と関わらなければ生きていけないのかわからんかったわい。でも確かな事は生きているとどこかで必ず人とは関わるもんじゃ。そうなるとその人と仲悪くする方がいいか、仲良くする方がいいかって話になるじゃろ?それでワシは仲良くする方が好きじゃったって事じゃな」

「でも、仲良くすると別れが辛くて…」

「お前さん、輪廻転生って知っとるかね」

「え?唐突になんです?あのー、生まれ変わりってやつですか?」

「昔の人は死んだ魂は何度も生まれ変わるって信じてたわけじゃな」

「でも科学的に証明されてはないんでしょう?」

「科学的な証明はされてはおらんが、科学の話で言えば、輪廻転生がないとも証明されてはおらん。まぁ、さっきお前さんが鴨長明の方丈記を唱えていたじゃろ?あれはつまり河の流れを唄って、人間も同じじゃと言ってるわけじゃろ」

「ええ」

「自然の世界では、ありとあらゆるものが巡っておる。河が海になり、海が雲になり、雨を降らす。そしてその中で多くの生き物に恵を与え、その生き物はまた別の生き物に恵を与える。ぐるぐるぐるぐる廻って形を変えては廻り続けるのが自然の摂理なのじゃ。その自然の中に生きる人間もその原理が流れていると考えるのが普通じゃとワシは思うのじゃ」

「形を変えてぐるぐる廻る」

「それは大きくも在り、小さくも在る」

「哲学的ですね」

「お前さんが例えば誰かと仲良くなって、その後何かがあって別れたとしよう。でもそれは決してゼロに戻るという事ではないんじゃ。何かをそこから得る事が出来るじゃろ。そしたらその経験を次の出会いに活かせる。それを繰り返し繰り返し続けていくと、徐々に経験は濃くなっていく。多くの事を沢山の人に残してあげることが出来るようになる」

「多くの事を沢山の人に…」

「そしてな、それはまた別の人にも続いていく。そうやって人間は何年も何十年も何百年も学んできたわけじゃ。それは失敗の積み重ねであり、成功の積み重ねじゃ。勉強は過去。過去とは積み重ねの結果じゃ。さて、その過去はどこに蓄積されるじゃろうか?」

「えーっと…」苦手王子にはだんだん話が難しくなってきました。

「脳みそじゃな。脳みそが記録し、記憶する。脳みその信号は電気で発するんじゃがね、電気は物体を伝っていく。そうなると人間の記憶も、もしかしたら、この世の中にある万物を伝って届いているのかもしれん。記録と記憶、つまり過去を持った電気がいろいろと形を変え、また人の脳みそに返ってきたりしてな。それが生まれ変わりって事なのかもしれん」

「うーむ。難しいですね」

「ま、つまりはな、なが~い目でみれば人との別れは次の生まれ変わりまでのほんの小休憩。お前さんの生まれ変わりとお前さんの大切な人の生まれ変わりがまた出会うかもしれんのは否定出来んじゃろ。さっきも言ったことじゃが、ない事を証明出来ない事はあるかもしれんという事。そうなると出会った人とは仲良くしておった方が再会した時に嬉しいじゃろ」

「生きている間でさえ、こうしておじいさんと再会出来たわけですし、もっともっと長い時間でみれば、再会出来ないことの方が難しいのかもしれませんね」

「理屈をこねて言ってみたがの、別れってのは再会の喜びを生み出す為に誰かさんが与えてくれているもんじゃとワシは思うよ」

「あ!そう言えば、おじいさん、前に日記を戴いて何もお返し出来ずに後悔していたんですよ!」そう言うと苦手王子は星の丘で大事に育てたメロンパンの花とクロワッサンの花をガクシャに手渡しました。

「どちらもパサパサするものじゃな。ワシはもう老人じゃ、これ以上ワシから水分をとらんでもよかろうに」

そう言いながら、ガクシャはメロンパンの花とクロワッサンの花を一口サイズににつまみました。そしてそれを口へ放り込んで一言。

「こんなにうまいものを食べたのは生まれて初めてじゃ。長生きして良かったわい」

別れは再会までの小休憩。

世界は回り続けている。終わって始まって形を変えて続いている。

おじいさんの長生きをして良かったという声を聞いてなんだか涙が出た。

昔々、苦手王子という自分の事が大嫌いな男がいました

苦手王子の本

苦手王子はそれからもずっと旅を続けました。…と、言っても帰りたくなかったわけではありませんでしたが。道を覚えるのが苦手だったので帰り道がわからなくなってしまったのです。

様々な場所で綴った苦手王子の日記は次第に厚さを増していき、ついには持ち運ぶことが出来なくなる重さになりました。もちろん毎日書いたわけではありません。思い出した時に書くだけでこれだけの重さになったのです。

しかし困ったことになりました。重いものを持つのが苦手だったので、このまま持っていく事が出来ません。しかも物を捨てる事が苦手なので、その場で焼き捨てる事も出来ません。

散々迷いましたが、苦手王子はそれを出会った人々に差し上げることに決めました。

「こんな僕の書いたものを欲しがる人がいるのだろうか?」なんて心配にはなりましたが、人が書いたプライベートほど読んでみたいと思わないものはありません。

人々は喜んでそれを受け取り、繰り返し読みました。繰り返し、繰り返し読みました。苦手王子だからこそ書けた、その多くの教訓は各地の人々の心を打ったのです。

これは風のうわさですが、何十年も続いた争いが収まった国もあったといいます。そんな事を苦手王子は知りません。

きっと今でも苦手王子は今のままでダメだと思っているでしょう。きっと今でも苦手王子は自分の嫌いな部分を見つけては落ち込む事もあるかもしれません。

それでもひとつだけ苦手王子は自分の事が好きになった部分があります。

それは歩き続けているという事。歩き続けている事が出来ているという事。

もちろんそれは休み休み。ときにはくじける時もあるでしょう。ときには全く動きたくない!と思ってしまう時もあるでしょう。それでも苦手王子は知っています。毎日やる必要がないことを。続ける事は別だって事を。

いつだってマイペース。

歩き続けていれば、放浪の旅を続けているピアニスタにまた再会する事もあるかもしれません。もしかしたら日記の噂を聞きつけた、おしゃべり好きのアカゲに再会することもあるかもしれません。ビジネスチャンスを見つけたサラリーメンにまた会えるかもしれません。

歩き続けてもう一度アーサーやナイトに会ったなら…。彼らはきっと再会を喜んでくれることでしょう。友達はなろうと伝えてなるものではないのですから。

歩けば歩くほど、沢山の人と出会い、沢山の人と別れますが、それは再会の可能性が増えるという事。再会は嬉しいし、幸せな事。繰り返すこと続くこと。でも前があって後ろがあって、どっちを向くのも自分の意志。

そんな世界に存在出来る事。

それはきっと無駄な事ではないでしょう?

苦手王子を書き終えて

苦手王子のあとがき

ふぅ…。書いたー!何度も何度も書き直したー!そしてやっとでけたー!

…さて。何を書こうか。あとがきというのを書いた事がないので、思った事をつらつらと。

僕の趣味は散歩です。毎日毎日夜に歩いてはいろいろな事を考えます。唄ったり踊ったりして、周りにひかれたりします。母に見つかった時は苦笑いされました。でもそれが僕の心の病気との向き合い方。

ときにはすごく落ち込む事もあるけれど、その時はテントを持って遠出をします。今までいろいろな人に出会って、その人達は不思議となぜか、こんな僕にすごーく優しくしてくれます。しかし旅は必ず終わります。つまりはずっとその人とは関わってはいられないのです。別れが訪れ、そのたびに何となく寂しい気持ちになったりします。

あぁ。ここは僕の居場所ではないんだ。そんな事を思って悲しくなるのです。

でもそんな土地土地で出会った人から時々、便りが来たりして幸せな気分になります。人間は単純なものです。かまってくれると嬉しいのです。

僕は友達が少なく、会社で働いているわけでもないので、人とのつながりが希薄です。

それでも時々心配して連絡をくれる友人がいます。その友人も不思議なつながりで出会った人ばかり。

立ち止まったまま動かなかったらきっと出会わなかった人。

悩んだ時はあがこう

そんな気持ちを物語にしてみました。

いろいろな事が苦手で、悩む事が多いけれど、何度も挫折して、ときどき消えちゃいたいなって思う事もあるけれど、そういう経験が僕を生かし続けてくれています。

夢が消えて、目標も何もないな…なんて過ごした日々もありましたが。

今の僕の夢は長生き。そんな夢を持てるようになったのは僕に関わってくれた全ての人のおかげです。

そんな僕のつたない文章ですが、苦手王子の物語をここまで読んでくださって本当にありがとうございました。

あなたの心が少しでも軽くなりますように。

野口明人

ABOUT ME
野口 明人
好きな映画は『オーロラの彼方へ』。好きな小説は『十八の夏』。好きなCDは『Return to Forever』。好きな漫画は『惑星のさみだれ』。趣味はロードバイクで日本をぐるぐる。そんなノッポでうずまきな30代。埼玉出身。ブログは今年で10年目!!記事少ないけど。…でも、それぞれ魂込めて書いてきたはず。だから、今日も読んでくれてありがとう!

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