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『不安な童話』を読んで、恩田陸の手のひらで僕はアシカになった…。

不安な童話

不安な童話

著者:恩田陸
出版社:新潮社
出版年月日:2002/12/1
ページ数:344
ISBN-10:4101234140

『不安な童話』は恩田陸の3作品目なのだが、3つ目ともなると「恩田陸とはこんな作家だ!」という大体のイメージが固まってくる頃だと思う。…が!まさか、こうまでも前作、前々作から作り上げられる作家イメージをぶっ壊してくるとは思わなかった。

ずっと漂うふわふわとした不気味さ。読み終わってもスッキリしない謎。様々な視点から描く群像劇形式のリドル・ストーリーの担い手。それが僕の中の恩田陸だったのだ。

「お、恩田陸なのにオチがついている!?」「お、恩田陸なのに伏線全部回収している!?」「お、恩田陸なのに一人称小説!?」「お、恩田陸なのに本格派ミステリー!?」

お、お、おん、おん…とキョドリすぎて最後にはアゴがハズレた。そして僕は、アシカになったのである…。

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『不安な童話』のあらすじやストーリーを10秒でまとめると…

不安な童話とは…

「私はこのハサミで刺し殺されるのだ!」強烈なデジャヴに襲われ、高槻倫子の遺作展で失神してしまった24歳の万由子。大学教授の秘書を務める彼女には昔から不思議なチカラがあった。そんな彼女の元に高槻倫子の息子が訪れる。「あなたは25年前に殺された母の生まれ変わりかもしれない」と告げられた万由子は息子のお願いを聞き、倫子の死について調べ始めるのだが…。

『不安な童話』っておもしろいの?感想は?評価は?おすすめ?教えて!レビューロボ・読書エフスキー3世!

文豪型レビューロボ読書エフスキー3世
前回までの読書エフスキー3世は…

書生は困っていた。「図書館王に俺はなる!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。読んでいない本のおすすめを聞かれ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…

大変です!先生!『不安な童話』の事を聞かれてしまいました!『不安な童話』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?

無料読書案内の書生

読書エフスキー3世

“生まれ変わりをテーマにした本格ミステリー”ジャ。
…と、言いますと?正直な所『不安な童話』は面白い本なのでしょうか?

無料読書案内の書生

読書エフスキー3世

面白イ面白クナイハ私ニハ決メラレナイダロ。希望ヲ持タズニ生キルコトハ、死ヌコトニ等シイ。
えーっと、それでは困るのです。読もうかどうか迷っているみたいですので。ちょっとだけでも先生なりのご意見を聞かせていただきたいのですが。

無料読書案内の書生

読書エフスキー3世

真ノ紳士ハ、持テル物ヲスベテ失ッタトシテモ感情ヲ表シテハナラナイ。私ノ好キ嫌イヲ…
えええい。このままではただ、一さいは過ぎて行ってしまう!先生、失礼!(ポチッと)

無料読書案内の書生

読書エフスキー3世

ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!何者かに体を乗っ取られるぅぅぅー!!

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批評

読書エフスキー3世

「私のグレーテル」高槻倫子が発したその言葉がやけに印象的なプロローグからこの物語は始まるわけだけど、『不安な童話』というタイトルは不遇な死を遂げた高槻倫子という女流画家が出した画集の名前から付けられている。
『不安な童話』という名前をつけるだけあって、眠れる森の美女やら白雪姫やら幸福の王子などをモチーフに暗い絵を描く画家であった高槻倫子だったが、彼女は通り魔に殺されてしまった。犯人は未だに見つからないまま。彼女の死後、遺作は人々の前に発表される事なく25年経った。

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読書エフスキー3世

そしてこの小説の主人公、古橋万由子24歳はそのずっと発表される事のなかった高槻倫子遺作展を観に行く。自分が生まれる1年前に死んだ画家の絵。しかも今回初めて発表される絵たち。なのに万由子は知っている。ここにある絵を全部。そして見えてくるハサミ。私はこのハサミで刺し殺されるのだ!「ハサミが・・・ハサミが・・・」と言って、その展示会場で気を失ってしまう。
初っ端からかなりパンチの聞いた導入。不安さをグリグリと押しつけはしてこないが、なんとなく不気味。ここまで読んで、おぉ、これは恩田陸のデビュー作『六番目の小夜子』チックだなとポンと頭に浮かんできた。今回もこんな感じで複数の視点で書いていくんだなと。

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読書エフスキー3世

しかし、その予想は裏切られる。この後はずっと万由子視点で物語が進む。そもそも1作品目2作品目と高校生の噂的なものを扱ってきた作品だったけど、今回はガラリと変えて主人公は大学教授の秘書。ここで、おや?今回の恩田陸はちょっと違うぞって思うわけだ。
ハサミが…と言って失神してしまった女性がいると話を聞き、万由子の職場にやってくる倫子の息子、秒(びょう)。彼は突然、万由子は母の生まれ変わりかもしれない、なんて言い出す。荒唐無稽な事を言いだしたもんだと万由子と教授の浦田泰山は思ったけど、秒の話を聞いていくと冗談ではないのかもしれないと思ってくる。

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読書エフスキー3世

と、言うのも万由子には昔から不思議なチカラがあって、無くした物を発見するのが得意だった。それはなんというか、人の意識の中にある無意識を感じ取って忘れていた物を読み取る能力で、その能力が倫子にもあったと言うのだ。
しかも万由子は一度も見たことがないはずの倫子の遺作の絵を、なぜか前に見たことがあった気がしたし、ハサミハサミと言って失神した理由も、倫子がハサミによって殺されていたからだ。偶然の一致。こりゃー冗談と言って笑えなくなってくる。

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読書エフスキー3世

んで、息子の秒はそんな生まれ変わりかもしれない万由子になぜ会いに来たかと言うと、倫子の遺書が見つかって、その遺書にはとある人々に絵を渡してくれと書かれていた。その絵を渡す場に立ち会ってくれないか?というもの。
母親は通り魔に殺された事になって事件は未解決のまま。もしかしたら、その遺書に書かれた人達の中に犯人がいるかもしれないし、もしそうだとしたら生まれ変わりのあなたは、その人達の顔を見る事でなにかを思い出すかもしれない。

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読書エフスキー3世

小さい頃に死んでしまった母の事をあまり覚えていない秒は、少しでも母のことを知りたいと万由子にお願いしに来たのだった。…とまぁ、そんな感じのあらすじで、この後、絵を渡しに行く展開になるわけね。それで、万由子は本当に倫子の生まれ変わりなのかどうかっていう謎を解き明かしていくミステリーなの。
今回とにかくビックリした事は、一本の謎をちゃんと最後まで引っ張ったこと。『六番目の小夜子』はサヨコは誰なんだっていう謎は物語の半分で明かされるし、『球形の季節』の噂も物語の半分らへんでヴェールを脱がされる。それなのに、今回は生まれ変わりなのかどうかを最後まで引っ張る。

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読書エフスキー3世

お、恩田陸が今までと全く違う書き方をしている!文章構成が変わった!!と。1作、2作と似た舞台で似た構成で全く違う作品を書き上げた恩田陸だったけど、芯に流れる文章の書き方から恩田陸のイメージは出来上がってた。
でもそれを全部ひっくり返す今回の作品。もし作家名を伏せられて読まされたら、同じ作家が書いたものだとわからないかもしれない。今までの恩田陸で一番特徴的であった、ふわふわした読後感。それを生み出していた謎を全部解明せずに終わるラスト。それすら今回の作品には顔を出さない。

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読書エフスキー3世

あまりに本格的な。本当に本格的なミステリーなんだよね。今回の『不安な童話』は。恐らく今までの作品3つの中で一番ミステリーファンには受け入れられやすい作品なんじゃないかな。
ま、しかし、本格的ミステリー。それで終わっては恩田陸の個性が全くないただの作品になってしまう。本格的なミステリーと言ったけど、あくまでも本格「的」であって本格「派」ミステリーでないのは、やはりそこにちょこっとしたファンタジー要素を組み込んでくるから。

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彼女の作品は、ジャンル分けに困る。そこは3つの作品に共通している。ホラー?ミステリー?ファンタジー?その全部とも言えるし、どれだとも言い切れない書き方。ホラーを押し付ける為の残虐なシーンはないし、ミステリーに入ってきていいのか?と不安になる超能力の存在。ファンタジーに振り切れない世界観。
取る人によっては、こんなのホラーじゃない!とキレる人もいるだろうし、ミステリーとして認めない!と言い張る人もいるだろう。そしてファンタジーならちゃんとファンタジーを書けよ!と言い切る人もいると思う。

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読書エフスキー3世

しかし、そのすべてのジャンルに振り切らないのに与えてくる恐怖と好奇心と高揚感。このバランスは本当にスゲーなと思う。この押し付けがましくない文章。ほら怖いでしょ?ほら気になるでしょ?ほら高まるでしょ?と全く言ってこない文章。この読んでいて不思議と心地よい、積極的に能動的になれる読書時間を提供してくれる恩田陸の文章は非常に魅力がある。
まぁ、振り切らないデメリットもあると言えばある。本格的なミステリーと書いたけど、犯人はありがちな展開。読んでいるうちにきっとこうだろうなという予測が出来てしまう。ただ、犯人がわかってもこの作品は読む気が失せはしない。読み終わった後に後悔はしない。

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読書エフスキー3世

なぜならば、伏線の回収がすごく鮮やかだからだ。僕はこの本を読み終わった後に、やった行動がある。次の写真を見てもらおう。

不安な童話 01

そう。この本の重さを測りたくなったである。191g。なぜこんな事をしたくなったのか。それはこの本に書かれている事があまりにも、無駄がなかったから。

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読書エフスキー3世

時折出てくる逸話や脇にそれた小話は小説の醍醐味と言ってもいいほど大好物なんだけども、その大体は実の所、物語の進行上では無くても困らないものだと思う。例えば村上春樹の作品に度々登場するジャズやウィスキーの話は無くなったとしても、彼の作品の魅力は減るかもしれないが、物語としては成り立つ。
しかし『不安な童話』はそうではない。ちょこちょこ出てくる雑談、そのひとつが無くなってしまっては物語が成り立たなくなってしまう。それぐらい無駄がないように、すべてが伏線だらけでこの小説は出来ている。191gすべてが無駄なく『不安な童話』を作り上げているのだ。

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読書エフスキー3世

まぁ、人によっては「幼馴染の今泉俊太郎はいらんかったやろ。あれは無駄ちゃうんかい」と言う人もいるかもしれないけど。それならばぜひ【第三章 すべての道が、海につながっているように見える】の部分を読んで欲しい。幼馴染で大金持ちの息子の彼の発言がすごく意味を持っている。そして幼馴染である必要もある。
191g底上げもなしの本格的なミステリー小説。もうそんな物を目の前に出されてしまったら僕は拍手をせざるを得なかった。おぉ!おぉ!おぉ!と歓喜し、お、恩田陸がまさか。お、おん。お、恩田…とおんおん驚愕し、エピローグの中の「私のグレーテル」まで読み終わった後には拍手してた。

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読書エフスキー3世

そうだよ。これなんだ。このラストこそが読者が求めているふわふわ感の完成形だ。謎を残せばいいってものではなく、終わりの先を想像させるラスト!3作品目でここまで来るとは…。すげーぜ恩田陸!
人をアシカにする小説。僕ならきっとそんなポップを書くだろうな。ま、採用されないだろうけど。オンオン言って拍手したくなるよ、これ読むと。

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読書エフスキー3世

以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ムイシュキン・アグラーヤ・ポルズンコフ!」
あれ?僕は一体何を…。こ、このカセットテープは。

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ブックレビューテープ

読書エフスキー3世

ウィンク。パチンパチン。
せ、先生!ありがとうございます!これを何度も聞いてしっかりと『不安な童話』の読書案内を出来るように努力します!

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読書エフスキー3世

マ、イチ意見デスヨ。「幸福ハ幸福ノ中ニアルノデハナク、ソレヲ手ニ入レル過程ノ中ダケニアル」ト昔ノ人モ言イマシタシ。ヨリヨクオススメデキルヨウニ努力スルノハハイイコトデス。
不安な童話レビューお終い

『不安な童話』で気に入った表現や名言の引用

「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた言葉たちです。善悪は別として。

無料読書案内の書生

自分が存在するよりも遥かな昔からこの世界が存在していたというのは、どう考えても不思議だ。少なくとも私にはその事実を証明することができないではないか? みんなが私の生まれた時点から口裏を合わせているのかもしれないし。この世界が私だけの百メートルの短距離走ではなく、永遠に終わらないリレー競技であるということを理解するのはなかなか難しい。

誰かが言っていたけれど、たしかに本というのは、床に置くと知らないうちに増殖するんだな。

そこには、熊のプーさんみたいな男が立っていた。

 ふだんは意識していなくとも、時折存在しない人の大きさが胸に迫って来る。
 中学や高校に進学した時、卒業した時に、こっそり母の写真のあるアルバムをめくったことを思い出す。一番喜んでくれるはずの人がいないことを思い知らされる季節。
 私だけかと思っていたが、六歳年上の姉が就職した時、やはりそっと隠れて母のアルバムを開いているのを見てしまった時は、なんとも言えない気分になった。

その声は、アルミホイルをキシキシ潰しているような、耳障りな声だった。

よく、クロッキーブックにさらさらスケッチしては、ちぎって紙飛行機を作ってたのよ。何してるのって訊くと、頭の中にあるものを追い出してるの、って答えるの。すごい勢いで何枚も描いて、くしゃくしゃって飛行機を折って、部屋の中や窓から飛ばすの。

何かの研究でもさ、それまで何十年も解決できなかった問題が、突然世界のあちこちで同時に解明されたりするんだよね。ふっとみんなが同じことを思いつく。やっぱり、この世の中には、われわれの知らない法則がいっぱいあるんだねえ

どうして生まれ変わりなら信じられるかっていうと、結局、死というものがいつもわれわれには未知だからだよね。われわれは生しか知らない。生の間の記憶しかない。自分が突然やって来て突然いなくなるというよりは、ずっと続いているものの一部というほうが受け入れやすい。だって、自然界のものはみな循環してるじゃない? 水だって、地球上の総量は一定で、雲になって雨になってぐるぐる回ってる。そういうものが周りにあるのに、人間だけが一過性のものだとは考えにくいよね。べつに仏教のせいとかじゃなくて、これって人間が根本的に持ってる思想だと思うんだ

いつのまにか遠いところに来ているのに気付き、どこか見えないところで、大きな歯車が回っているような気がしてならなかった。

ふと、膝に乗せた自分の手を見下ろす。両手が空いている時間なんて、人生にはほとんどない。いつも何か両手いっぱいに荷物を持って遠くへ行くのだ。

読書エフスキー3世

引用:「不安な童話」恩田陸著(新潮社)

『不安な童話』を読んでいる時にパッと思い浮かんだ映画・小説・漫画・アニメ・テレビドラマ、または音楽など

読書エフスキー3世

神ト悪魔ガ闘ッテイル。ソシテ、ソノ戦場コソハ人間ノ心ナノダ。コノ作品ガ私ニ思イ起コサセタ。タダソレダケナノダ。

『不安な童話』のまとめ

検索してみるとこの『不安な童話』は恩田陸っぽくない作品みたいですね。1、2作品目から感じた恩田陸が今後の恩田陸のイメージに強いのかな。今まで恩田陸を読んで来なかった分だけ、恩田陸とはこういう作家だ!というイメージがないまま読書をするのも面白いものですね。色々な発見がある。

それにしてもこの本は読みやすかった。僕は遅読なもんで、今まで1週間に1冊ずつぐらいで読むペースでしたが、これは3日で読めました。それがこの作品のおかげなのか、自分の読書習慣が戻ってきつつあるのかわかりませんが、早く読めるのはいいことだ。

とにかく僕が『不安な童話』を読んで感じたことは、今もなお売れている作家の初期作品とはこうもバラエティに富んだものなのか。というものでした。早く次の作品が読みたいです。次は一体どんな顔を見せてくれるのかな。

次回は『三月は深き紅の淵を』を読む予定です。

ではでは、そんな感じで、『不安な童話』でした。最後にこの本の点数は…

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